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2022 年度 実施状況報告書

高生体適合性超解像蛍光偏光イメージング技術の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22K04891
研究機関大阪大学

研究代表者

和沢 鉄一  大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授 (80359851)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード超解像イメージング / 蛍光偏光 / 配向秩序 / 光スイッチング蛍光タンパク質 / フーリエ解析 / 蛍光変調
研究実績の概要

本研究の目的は、超解像蛍光偏光イメージング技術を開発し、細胞中の蛍光標識タンパク質複合体の蛍光偏光測定を通して、複合体の配向および秩序化と細胞生理機能との関係を解析するための方法論を確立することである。具体的な実施項目は、(1)低強度照明光による細胞適合性の高い超解像蛍光偏光顕微鏡装置の開発、(2)超解像蛍光偏光顕微鏡観察で得られたデータから試料中の蛍光標識物体の配向と配向秩序を高空間分解能で算出する解析手法開発、そして(3)細胞内のタンパク質複合体の配向および配向秩序解析へ向けた超解像蛍光偏光イメージング技術の応用である。
本年度は、我々が開発した高生体適合性超解像顕微鏡であるSPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の改変を行い、試料中の蛍光物体の配向および配向秩序の画像を測定するためのメソッド開発を行った。SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡では、光スイッチング蛍光タンパク質で蛍光標識した細胞試料を観察し、周期的に変化する偏光パターンを有する励起光およびスイッチング光を試料に照射することで、試料が発生する蛍光の周期的変動(蛍光変調)を誘起する。そこで、SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡で蛍光変調を含む蛍光画像時系列を撮影・記録し、次いでフーリエ解析を行うことで試料中の蛍光の強度、変調深度、そして変調位相を算出し、それぞれを画像化する手順の開発を行った。この解析法によって、変調深度画像からは蛍光プローブの配向秩序の空間分布情報、そして変調位相画像からは蛍光プローブの配向方向の空間分布情報を得ることに成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、我々が以前開発したSPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡を改変し、試料中の蛍光物体の配向および配向秩序の測定メソッドの開発を行った。SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の試料は、蛍光明状態と暗状態との間の切り替えを光照射で制御可能な光スイッチング蛍光タンパク質で蛍光標識する。特に、本研究で用いるSPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡による観察では、蛍光暗状態から明状態への遷移(ONスイッチング)のための光と蛍光励起光を同じ波長、そして蛍光明状態から暗状態への遷移(OFFスイッチング)のための光を別の波長を用いる、ポジティブスイッチング型の光スイッチング蛍光タンパク質を使う。SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡では、直線偏光の励起光・ONスイッチング光、そしてOFFスイッチング光を用い、それらの偏光方向を<10 Hzの速度で同時に回転させながら試料に照射することで、偏光励起の選択則に基づく蛍光変調を誘起する。試料の蛍光顕微鏡画像の時系列を記録し、画像上の各画素の強度時系列をフーリエ解析することで、蛍光の強度、変調深度、そして変調位相を算出する手順の開発を行った。この解析法によって算出された変調深度画像からは蛍光プローブの配向秩序の空間分布情報、そして変調位相画像からは蛍光プローブの配向方向の空間分布情報が得られた。
また、細胞内タンパク質や小器官に結合した蛍光プローブの配向秩序は、温度などの細胞生理的環境と関係していると考えられる。細胞内生理的環境の測定には蛍光比型指示薬分子を用いたイメージングが定量性に優れているが、広視野蛍光観察の場合は焦点面以外からの迷光によって蛍光比、そしてそこから推定される生理環境パラメータに不確定性が生じる。そこで、幾何測光学に基づいて蛍光比の不確定性を推定する計算法を開発した。

今後の研究の推進方策

次年度は、蛍光偏光イメージングに向けてSPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の改変を引き続き行うとともに、高空間分解能の蛍光変調画像算出法の開発を行う。SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の改変では、試料面において励起光およびスイッチング光が高い偏光度を得るために、照明光学系で用いる光学素子の分光特性および偏光特性の再検討を行い、照明光学系の再構築を行う。また、超解像観察実験の効率化のため、照明光学系と撮像用カメラの動作を制御するためのプログラムの作成も行う。
高空間分解能蛍光変調画像算出法の開発では、SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡を用いた観察で得られる画像時系列データから、蛍光の変調深度および変調位相の空間分布を高空間分解能で得るための計算手法の確立を目指す。観察によって取得する蛍光変調画像データは画素ごとの蛍光強度の時系列から構成されている(平面上の強度分布)×(時間)という形式の3次元データである。SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の照明光の偏光は周期的に変動するため、各画素の蛍光強度の時系列も周期変動を示す。そこで、各画素の蛍光強度時系列からフーリエ解析を介して得られた解析画像データを用い、さらに最尤計算を行うことで超解像画像を推定する手法を検討する。

次年度使用額が生じた理由

本年度は、SPoD-OnSPAN超解像蛍光顕微鏡の改変、超解像変更画像データの再構成手法の開発、そして細胞試料の蛍光偏光イメージングを予定していた。しかし、予定を変更し、細胞試料の偏光イメージングは次年度以降に行うこととした他、本年度行ったSPoD-OnSPAN蛍光顕微鏡の改変は、既存の光学部品を用いて行うことができたので、次年度使用額が発生した。
細胞試料の偏光イメージングは、次年度および次次年度に実施する。SPoD-OnSPAN蛍光顕微鏡の次年度の改変では、偏光光学系用の部品を導入する予定である。また、顕微鏡観察のオンサイトで画像再構成計算を行うために、新規にコンピュータを導入する。次年度使用額は、以上のような見通しで使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 遺伝的にコードされた高速応答蛍光性温度指示薬によるミリ秒細胞内熱輸送プロセスの観察2023

    • 著者名/発表者名
      和沢鉄一,魯 慨,永井健治
    • 雑誌名

      実験医学

      巻: 41 ページ: 91~94

    • DOI

      10.18958/7173-00003-0000351-00

  • [雑誌論文] 細胞内の温度を0.1℃の分解能,そしてサブミリ秒の分解能で測定する蛍光タンパク質の開発2023

    • 著者名/発表者名
      和沢鉄一,魯 慨,永井健治
    • 雑誌名

      月刊細胞

      巻: 55 ページ: 284~287

  • [雑誌論文] Intracellular Heat Transfer and Thermal Property Revealed by Kilohertz Temperature Imaging with a Genetically Encoded Nanothermometer2022

    • 著者名/発表者名
      Lu Kai、Wazawa Tetsuichi、Sakamoto Joe、Vu Cong Quang、Nakano Masahiro、Kamei Yasuhiro、Nagai Takeharu
    • 雑誌名

      Nano Letters

      巻: 22 ページ: 5698~5707

    • DOI

      10.1021/acs.nanolett.2c00608

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Joule heat production in cells2023

    • 著者名/発表者名
      Tetsuichi Wazawa, Kai Lu, Takeharu Nagai
    • 学会等名
      The 60th Annual Meeting of the Biophysical Society of Japan
    • 国際学会
  • [図書] 「細胞に優しい超解像イメージング」,CSJカレントレビュー45「生体分子環境の化学」2023

    • 著者名/発表者名
      野間涼平,和沢鉄一,永井健治;日本化学会編
    • 総ページ数
      173
    • 出版者
      化学同人
    • ISBN
      9784759814057

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公開日: 2023-12-25  

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