研究課題/領域番号 |
22K04908
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
越智 正之 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (10734353)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電子状態計算 / フォノン / 熱電効果 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、電子状態・フォノン状態とそれらの結合に注目して、熱電物質の新しい性能向上指針を探るものである。そこでは、理論計算手法として第一原理計算と有効模型計算を組み合わせて用いる。 当該年度は、主に電子フォノン相互作用を含んだ有効模型の解析を行なった。具体的には、電子バンドおよびフォノンバンド、さらにそれらの結合を含むようなミニマルなモデルを構成し、そのパラメータを変化させながら輸送特性(電気伝導度やゼーベック係数、電力因子)を計算した。特に、複数の熱電物質において重要性の指摘されているバレー間散乱およびバレー内散乱の比率を変えることで、モデルパラメータに応じた、すなわち様々な電子・フォノン状態に応じた性能向上指針を得ることを目指した。電子バンドの有効質量やキャリア密度もコントロールパラメータとすることで、様々な状況を表現できるようにした。その結果、バレー間散乱の強い状況においては、強い繰り込み効果によってゼーベック係数に特異な振る舞いがみられることが明らかになった。その一部は先行研究によって指摘されていた振る舞いと合致する。こうした解析は、これまで注目されてこなかった電子・フォノン状態において、高性能もしくは新奇性の高い現象の起こる可能性を示唆するものである。またあわせて、いくつかの熱電物質について第一原理計算を行ない、その電子状態やフォノン状態を計算した。そうした解析を通して、電子状態・フォノン状態とその輸送特性の関係について議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定と比べると、第一原理計算というよりは有効模型計算に方向性が転換しているものの、比較的シンプルなモデルにおいて、非自明な電子・フォノン状態の実現を見出すことができた。今後はそれを活かして現実物質の解析に進むことも可能であり、全体としておおむね順調に進展しているといって良いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは現在解析している有効モデルの計算を続け、より広いパラメータ領域において解析を行なう。その結果を学会や論文等で発表する。また、現実物質において有効モデルとのパラメータ対応関係を調べる。そうすることで、有効モデルに基づく物質設計のための知見を得ること、またモデル設計にフィードバックをかけてより現実に近づけたモデリングを試みる。また当初予定にあるように、特徴的な電子状態・結晶構造に注目した第一原理計算や有効模型計算も行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた研究会がオンラインで実行され、そのぶんの旅費が不要となった。その一方、研究遂行に必要な計算コストは想定よりもやや大きく、かつ計算機価格は計画時点よりも高くなっている。そのため、次年度には今年度未使用分とあわせて計算機クラスタを購入して、計算資源を増強し、研究計画を確実に遂行できる体制を整える。
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