研究課題/領域番号 |
22K04937
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
間瀬 一彦 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (40241244)
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研究分担者 |
菊地 貴司 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 専門技師 (30592927)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非蒸発型ゲッター / チタン / 高純度化 / 表面窒化 / 真空 / 内殻光電子分光 / 放射光 / 排気速度測定 |
研究実績の概要 |
超高真空中で加熱すると反応性の高い表面が生成し(活性化)、残留ガスを排気する材料を非蒸発型ゲッター(NEG)と呼ぶ。我々は表面窒化した純度99.95%以上の高純度Ti蒸着膜が185℃の加熱で活性化し、残留ガスを排気することを見出した。この結果は、Ti蒸着膜の活性化温度は350~400℃とする従来の常識を破るものであり、Ti蒸着膜の高純度化と表面窒化が活性化温度を下げることを示唆する。本研究の目的は、Ti蒸着膜の純度と表面TiN量をパラメーターとして種々のTi蒸着膜試料を作製し、Ti蒸着膜の純度・表面TiN量と活性化温度の相関を明らかにして、Ti蒸着膜の高純度化と表面窒化が活性化温度を下げるメカニズムを解明するとともに、活性化温度の低いNEGを開発するための指針を得ることである。 2022年度は、表面部分窒化法として、1)130℃で高純度NH3を導入、2)150℃で高純度NH3を導入、3)130℃で高純度N2を導入という3通りの方法で表面部分窒化した高純度チタン蒸着膜を作製し、室温および240、360、470℃に加熱した後の内殻光電子分光測定を行った。その結果、いずれの試料でも加熱前の表面はTiO2で覆われていること、130℃に加熱した状態でNH3を導入して窒化した試料の場合に表面の酸化、炭化が抑制されることがわかった。さらに240℃加熱、360℃加熱と温度を上げるとTiO2ピーク強度が減少するとともに、Ti+、Ti2+のピークが出現すること、470℃加熱後は、表面TiO2ピークはほぼ消失して金属Tiピークが主となることがわかった。以上の結果から、表面窒化法としては130℃で高純度NH3導入が望ましいこと、250℃加熱で薄膜中の一部の酸素が高純度Ti蒸着膜内に拡散すること、470℃加熱で、表面のTiO2薄膜中の酸素原子がほぼすべて高純度Ti蒸着膜内に拡散することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、Ti蒸着膜の高純度化と表面部分窒化が活性化温度を下げるメカニズムを解明するとともに、活性化温度がさらに低いNEGを開発するための指針を提案することである。2022年度は、ウイザップ偕揚社と協力して、フッ硝酸による化学研磨処理を施した高純度チタン線、通常の電解研磨より電解率をアップした処理を施した高純度モリブデン線、化学研磨した高純度タングステン線を用いた低炭素・酸素濃度チタン蒸着用フィラメントを開発した。さらに、この高純度チタン蒸着源を用いて、超高真空蒸着装置内で高純度チタン蒸着膜を作製し、1)130℃で1×10-4 Paの高純度NH3を導入、2)150℃で1×10-4 Paの高純度NH3を導入、3)130℃で1×10-4 Paの高純度N2を導入という3通りの方法で表面部分窒化した試料を作製した。次いで高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設PFのBL-13Bにおいて、室温および240℃、1時間加熱後、360℃で1時間加熱および大気暴露後、470℃で1時間加熱した後の内殻光電子分光測定を行った。その結果、1)130℃で高純度NH3を導入して表面を窒化すると、高純度チタンの炭化、酸化を抑制できること、2)240℃、1時間加熱で薄膜中の一部の酸素が高純度Ti蒸着膜内に拡散すること、3)470℃、1時間加熱で、表面のTiO2薄膜中の酸素原子がほぼすべて高純度Ti蒸着膜内に拡散することがわかった。以上の成果から、Ti蒸着膜の高純度化と表面窒化が活性化温度を下げるメカニズムとしては、チタン表面の部分窒化による酸化と炭化の抑制が関連していること、240℃、1時間加熱で表面部分窒化高純度チタン表面はある程度活性化すること、470℃、1時間加熱で表面部分窒化高純度チタン表面はほぼ完全に活性化すること、がわかった。以上の成果から、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、まず2022年度に測定した内殻光電子分光スペクトルのピークフィットを行い、定量的な表面組成分析を行って、1)130℃で1×10-4 Paの高純度NH3を導入、2)150℃で1×10-4 Paの高純度NH3を導入、3)130℃で1×10-4 Paの高純度N2を導入という3通りの表面部分窒化法のうち、どれが最適かを決定する。次いで、最適と判断した表面窒化無酸素Ti蒸着法で内面に表面部分窒化高純度チタンを蒸着した非蒸発型ゲッターポンプを製作し、排気速度測定装置に設置して、H2、COに対する排気速度を、活性化温度をパラメーターとして測定する。2024年度は、さらに高純度のチタン蒸着を行うためのチタン蒸着源を製作するとともに、さらに表面TiN量が増える表面窒化法を開発する。新しいチタン蒸着源と、新しい表面部分窒化法を用いて表面部分窒化高純度チタンを蒸着した試料と非蒸発型ゲッターポンプを製作して、XPS測定およびH2、COに対する排気速度測定を行なう。以上の研究成果に基づいて、表面部分窒化および高純度化がチタン蒸着膜の活性化温度低下をもたらすメカニズムを考察するとともに、活性化温度が低いNEGを開発するための指針を提案する。最後に、研究成果を原著論文にまとめて報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は物品費、55万円、旅費、10万円、人件費・謝金、60万円、その他、5万円の合計130万円の支出を予定していたが、実支出額は物品費、134,200円、旅費、174,450円、人件費・謝金、0万円、その他、140,600円の合計449,250円で、次年度使用額、850,750円が生じた。次年度使用額が生じた理由は、2022年度に購入する予定だった物品の購入が2023年度にずれ込んだこと、人件費・謝金で雇用する予定であった研究支援員を雇用できなかったことの2点に由来する。次年度使用額、850,750円は2022年度に購入する予定だった物品の購入と研究支援員の雇用に使用する予定である。
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