研究課題/領域番号 |
22K04956
|
研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
今井 大地 名城大学, 理工学部, 准教授 (20739057)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 窒化物半導体 / 光吸収 / サブバンドギャップ / AlInN / 面発光レーザー |
研究実績の概要 |
LD動作時の光吸収損失や熱発生の根源となるためその制御が重要でありながら、窒化物系混晶半導体薄膜のサブギャップ領域の電子状態を介して起こる光吸収や熱発生過程には不明な点が多い。本研究では申請者が科研費若手研究(20K15182)で提案した微小な吸収係数の定量評価手法を更に発展させ、サブギャップ領域における光吸収過程(吸収係数)とそれに伴う熱発生過程の解析、更には熱輸送過程(熱伝導率)を定量評価する手法を構築し、LD素子内部での光吸収や熱発生の本質的制御指針の解明を目指す。 令和4年度は、光熱偏向分光(PDS)法を中心に青・緑色面発光レーザーの多層膜反射鏡材料であるAlInN混晶薄膜におけるサブギャップ吸収過程の解析を進め、PDS法による吸収係数測定精度の検討、AlInN混晶においてサブギャップ吸収を引き起こす起源の解析を進めた。また熱輸送過程に関して、PDS信号の位相成分を熱拡散方程式に基づくモデルにより解析することで熱伝導率の解析に取り組んだ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PDS法は非発光再結合による熱発生を利用して吸収スペクトルを得ているため、吸収係数の絶対値を評価するためには、バンドギャップ内で吸収された電子(正孔)の非発光再結合効率を求める必要がある。本研究ではHVPE成長厚膜GaN基板の吸収スペクトルを透過測定により実測し、これとPDSスペクトルの形状がよく一致することから、GaN基板ではサブギャップ領域で吸収されたキャリアの再結合過程として非発光再結合が支配的であることを明らかにした。またこれに基づき、PDS信号強度比からGaNテンプレートの吸収係数を見積もることで、その上に成膜された膜厚300nmのAlInN混晶のPDS信号に対し、下地GaNテンプレートの影響はほとんど無視できることを確認した。AlInN混晶についても、最もサブギャップ吸収の大きい試料において分光エリプソメトリーから見積もった吸収スペクトルとPDSスペクトルの形状がよく一致することから、サブギャップ領域で吸収されたキャリアの再結合過程において非発光再結合が支配的であると考えられる。AlInN混晶におけるPDS信号強度のIn組成依存性解析からは、下地GaNテンプレートとa軸格子整合するIn組成17%を超えると急激にPDS信号が増加すること、またPDS信号強度は転位密度に依存しない傾向が得られた。これより、AlInN混晶においてサブギャップ吸収を引き起こす深い準位の起源はIn組成増加に伴い増加する点欠陥や複合欠陥が候補であると考えられる。また熱伝導率の評価については、ロックインアンプにより得たGaN基板におけるPDS信号の位相成分を、熱拡散方程式に基づくモデルにより解析した。今後、測定条件等の検討をさらに進めることで、その定量性や精度に関する検討を進める。
|
今後の研究の推進方策 |
AlInN混晶を中心に、LDやVCSELなど実際のデバイス構造を念頭に、更に薄膜化した試料においてサブギャップ領域における吸収係数の定量評価を目指す。PDS信号強度は吸収係数と膜厚の積に比例するため、連続的に厚膜を積層することが困難な混晶の場合は、多層膜構造を繰り返し積層することで十分な膜厚を確保することを試みる。これにより、AlInN混晶の場合は面発光レーザーに用いられる膜厚程度の高品質試料において、サブギャップ領域の光吸収過程を観測し、これに基づき素子動作特性に対するAlInN混晶のサブギャップ吸収の影響を定量的に評価することを目指す。熱輸送過程の解析については、PDSにおける位相信号の測定周波数依存性解析により熱伝導を評価し、その定量性や精度に関して検討を進める。高周波数でも十分なS/N比が確保できるよう、測定系の改良も検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は光熱偏向分光測定用に更に高出力な白色光源の購入を予定していたが、本研究遂行にあたっては現状所有しているキセノン光源でも対応可能と判断したため購入を見送った。次年度購入予定の消耗品、および光熱偏向分光やフォトルミネッセンスで使用可能な単色光源の購入に充当する。
|