研究課題/領域番号 |
22K04959
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
吉田 郵司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究センター長 (80358340)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 結晶構造 / 前駆体 / 塗布乾燥過程 / X線回折 / その場観察 |
研究実績の概要 |
本年度は、取得した実験データの解析と考察を中心に行った。SPrin-8でのX線回折のその場観察により、シングルカチオンのペロブスカイト(MAPbI4)の溶液塗布乾燥での結晶成長に関して、通常乾燥とガスブロー乾燥における前駆体結晶の形成から熱アニーリングによるペロブスカイト結晶への転換までの詳細な解析を行った。その場観察の解析より、前駆体結晶の回折ピークの減少と入れ替わる様に、ペロブスカイト結晶の回折ピークが増加するが、通常乾燥よりガスブロー乾燥の方がその成長曲線の時定数が小さいことが明らかになった。このことは、ガスブロー乾燥で前駆体結晶が配向している方が結晶転換し易く、速やかにペロブスカイト結晶に転換し、太陽電池に適した平坦かつ高結晶性な高品質膜を形成することを示している。また、ペロブスカイト結晶は溶媒であるDFM蒸気の雰囲気下で前駆体結晶が可逆的に生成することを確認し、その際、配向は維持されないことも明らかにした。このことは、前駆体結晶の配向化は溶液からガスブロー乾燥時でのみで起こる現象であることを示している。本成果に関しては、現在論文執筆中であり、関連する国際会議でも発表する予定である。今後は、ミックスカチオンでの実験、真空クエンチ法での反射光吸収スペクトルのその場観察と並行して、標準プロセスであるアンチソルベント法との比較検討も行い、前駆体結晶の配向とペロブスカイト結晶の高品質化の詳細なメカニズムを確立する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、塗布乾燥プロセスにおけるペロブスカイト結晶の成長過程を、X線回折のリアルタイム測定により観察し、種々の条件での結晶成長メカニズムを解明することで、最適な薄膜作製プロセスの指針を見出すことを目的としている。 前年度は蓄積されたデータを解析し、以下のことが明らかになってきた。窒素ガスによる乾燥(通常乾燥)、真空減圧による乾燥(真空乾燥)、窒素ガス吹付による乾燥(ガスブロー乾燥)の3つのタイプの塗布乾燥プロセスを行い、その後100℃で加熱アニーリングすることで前駆体結晶からペロブスカイト結晶に転換する状況をその場観察した。その結果、通常乾燥および真空乾燥では表面が凸凹で太陽電池には不向きな膜質であること、ガスブロー乾燥では表面が平滑なアンチソルベント法と同じ膜質のものが得られていることを確認した。更に、前駆体結晶の特定の結晶面が配向していることを示す強い回折ピークが観測され、ガスブロー法で前駆体結晶が形成されると同時に基板に対して結晶配向していることが明らかになった。 今年度は、通常乾燥とガスブロー乾燥の詳細な比較を行った。乾燥後に100℃でアニーリングを行うことでペロブスカイト結晶に変換する。その際、前駆体結晶の回折ピークの減少と入れ替わる様に、ペロブスカイト結晶の回折ピークが増加するが、成長曲線の時定数が配向している方が小さく、速やかにペロブスカイト結晶に転換することが明らかになった。また、ペロブスカイト結晶に溶媒であるDMFの蒸気を導入することで、前駆体結晶が可逆的に生成することを確認したが、配向は維持されないことも明らかになった。即ち、前駆体結晶の配向化はガスブロー乾燥時のみで起こり、その履歴は保存されないこととなる。この様に、前駆体の配向化とペロブスカイト結晶転換のメカニズムが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度および今年度に解析を行ったSPring-8でその場観察したペロブスカイト結晶のX線回折の結果をよりクオリティの高い論文として取りまとめるためにも、更に前駆体結晶の配向化とペロブスカイト結晶転換の詳細なメカニズムを確立する必要がある。その為に、溶媒を用いない真空プロセスでの配向制御との比較の中で検討することが有効であり、当該分野の研究者に研究分担者として加わって頂く予定である。特に、真空プロセスでは前駆体結晶が形成されずに直接配向することが知られている。配向し易い結晶面と基板との関係を参考にしつつ、溶液プロセスでのガスブロー乾燥での前駆体結晶、引いてはペロブスカイト結晶の配向のドライビングフォースを明らかにする予定である。 尚、既存システムで実績のある光ファイバーをプローブとした反射光吸収のリアルタイム計測システムでの真空クエンチ法への適用も進めつつ、今後は、その場X線回折によるガスブロー乾燥法とベンチマークであるアンチソルベント法との比較検討も進める予定である。即ち、前駆体結晶の配向化が太陽電池向けのペロブスカイト結晶の高品質化への必要要件であることを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度、既存システムで実績のある光ファイバーをプローブとした反射光吸収のリアルタイム計測システムに代わって表面形態観察や蛍光発光画像をその場観察できるカメラシステムの導入へと研究計画を変更した。しかしながら、半導体不足の余波もあり機種選定に時間を要したこと、カメラシステムの導入と実験にかなりの時間が掛かることが明らかになり、方針転換を行うこととなった。他方で、ペロブスカイト太陽電池の太陽電池測定システムの故障もあり、そのソースメータの導入を優先することとした。 また、新たな作製プロセスとして期待される真空クエンチ法への適用も計画変更に含まれており、当該プロセスへの反射光吸収のその場観察システムの組み込みにも時間が掛かっていることも繰り越しを実施した要因である。今後は、目的である前駆体結晶配向を介したペロブスカイト結晶成長のメカニズムの解明に向けて、アンチソルベント法とガスブロー乾燥法の比較検討、ミックスカチオンとの比較検討に集中して、実験を早急に進める予定である。
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