本研究課題は、血清などの液体試料中の低濃度薬剤のリアルタイム検出に向け、試料中における夾雑成分の除去と、薬剤由来のラマン信号増強による検出・定量限界の改善を目的として進めていた。 初年度では本課題の核となる、夾雑成分の除去に着手した。血清中で最多となる夾雑成分であるタンパク質、中でもアルブミンを対象とし、実験モデルとして牛血清アルブミンと、リアルタイム検出の要請が高い薬品であるメトトレキサートとの混合溶液を考え、目的を達成のための基礎検討を進めていた。方法としては、高強度レーザによるタンパク質結晶化の促進現象に着目し、結晶化したタンパク質自体をレーザで捕捉し液中の薬剤濃度に影響の少ない形で除去できるかの確認を行うものであり、光学系の構築を行っていた。 一方、提案手法では高強度レーザ中にある液滴の蒸発を制御する必要性があり、今後これが大きな技術的障壁となると考えていたため、特にタンパク質結晶化のレーザ強度の強さを緩和する条件を満たすような結晶化制御手法について調査した。集団分子が2枚のミラーで構築された光共振器中にある時に、分子の振動モードと共振器光学モードが強く結合(振動強結合)した状態が形成され、選択的分子の結晶化や結晶化の加速といった操作が可能となる文献が複数あり、これに着目した。この振動強結合モデルにおいては、分子と共振器の結合強度を強く取ることが重要となることから、昨年度末から本年度にかけ、共振器中の量子力学的な雑音を制御した環境では原子-共振器結合が増強されるという理論に着目し、それを集団分子-光共振器系に拡張した。 これに並列し、タンパク質分子と共振器系の振動強結合に関する報告例などを参考に、振動強結合系を冒頭に述べた目的達成のための実験モデルへと組み込めるかの検討を始めていたが、研究代表者の転職に伴い、2024年4月より職務内容が変更となるため、中途終了した。
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