研究課題/領域番号 |
22K04964
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
宮丸 文章 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20419005)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 時間壁 / 周波数変換 / テラヘルツ波 |
研究実績の概要 |
これまで困難であったテラヘルツ波の周波数を制御する方法の一つとして,時間壁を用いた周波数変換手法を用いることによって高効率な周波数変換を実現することができます。しかしながら,実験的には,理論的に予想される最大効率に達しておらず,効率改善を行う余地が残されています。本研究では,時間壁による周波数変換手法における効率低下の問題点を解決するために,その効率を減少させている要因と物理的メカニズムを解明し,それらを改善することにより実験的な変換効率を向上させることを目的としています。 本年度では,実験的に変換効率が減少している要因を探るため,光励起後の半導体導波路伝搬における減衰定数の測定を行いました。具体的には,半導体導波路をテラヘルツ波が伝搬しているときに,導波路表面にフェムト秒パルスレーザーを入射し,半導体表面にキャリアを励起させることにより周波数変換を実現します。このパルスレーザーの入射タイミングを変化させることによって,周波数変換後に導波路内を伝搬する距離を変化させることができます。このとき,変換後のテラヘルツ波パワーの伝搬距離依存性が指数関数的であることを仮定することにより,伝搬定数を測定することができました。 さらに,その減衰の要因が光励起キャリアのジュール損によるものと推測しました。理論的なアプローチによってキャリア密度の厚み方向における分布を計算し,その分布をもとに計算機シミュレーションによって減衰定数を見積もったところ,おおよそ実験で得られた値と一致することを確認しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,実験的に得られる周波数変換効率が理論値よりも低い要因を探るため,まず実験的に減衰定数を測定することを目的としました。導波路表面に入射するフェムト秒パルスレーザーのタイミングを変化させながら,変換後のテラヘルツ波の検出パワーを測定することにより,光励起後の伝搬に伴う減衰量を測定することができました。また,理論と計算機シミュレーションによって得られた減衰定数を比較した結果,両者はおおよそ一致する結果が得られました。このことより,本年度は概ね順調に進展しているものと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,導波路表面に金属パターンを持った導波路の,テラヘルツ波周波数変換特性を測定していく予定です。具体的には,導波路の進行方向に沿った金属ラインを周期的に並べた金属グレーティング構造を作製し,そのときの周波数変換効率を金属パターンの無い従来のものと比較します。光励起後の導波路表面の導電率は,金属パターンが無い場合は,半導体中の光励起キャリア密度のみで決まるのに対し,金属パターンがある場合は,金属パターン部分は半導体よりも高い金属の導電率に依存します。半導体中の光励起キャリア密度は高々~10^18 cm^-3程度であるため,金属のキャリア密度(~10^22 cm^-3程度)とは大きな差があります。これは半導体中の光励起キャリアによるジュール損が,金属のジュール損と比べて非常に大きいことを意味します。それ故,金属パターンを導波路表面に作製することによって,伝搬に伴う減衰の要因となっていたジュール損を減少させることができると期待しています。本研究ではさらに,金属グレーティングの幾何学的パラメータを幾種類か変化させ,それらの比較を行い,最適なパターンを探る予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は概ね順調に研究が進捗し,予定の予算額よりも少ない予算で研究をすすめることができました。 次年度は,比較的大規模な計算機シミュレーションが行えるようにシミュレータ―を導入する予定です。
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