研究課題/領域番号 |
22K04967
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 真至 神戸大学, 工学研究科, 名誉教授 (50107348)
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研究分担者 |
藤井 稔 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00273798)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Fano共鳴 / 近接場応答 / 多層膜系 |
研究実績の概要 |
本年度は、Fano共鳴を示す多層膜系の特異な局所場応答を解明するために、以下の点について研究を推進した。 (1)平面多層膜系での入れ子構造によるFano共鳴の発現:従来のATR測定により、平面多層膜系のFar-field応答にFano共鳴が現れることが分かっている。ATR応答は、そもそも系全体の光吸収応答によって決定されるが、ブロードなモードを示す、金属プラズモン層あるいは誘電体導波路層内でのFano形状と、もう一方のシャープなモードを示す誘電体導波路層のLorentzian形状の重ね合わせの結果としてFano形状が発現する(Fano形状=Fano形状+Lorentzian形状)と考えられる。さらに、金属プラズモン層あるいは誘電体導波路層の局所場は、層の厚み方向に沿って異なるFano形状を示し、結局層全体のFano形状は様々なFano形状の重ね合わせの結果である(Fano形状=Fano形状の足し合わせ)ことが示唆される。従来の誘電体のみの多層膜の計算を発展させ、今回金属―誘電体多層膜系についても、解析を進めた。その結果、誘電体のみの多層膜に限らず金属―誘電体多層膜も含めて、一般的にFar-fieldのFano光学応答が、上述の入れ子構造のメカニズム(多重Fano共鳴)で発現することが明らかになった。 (2)球形多層膜系のFano共鳴への展開:従来は、平面多層膜系を研究対象にしてきたが、さらに多様な局所場の振舞いを解明するために、コアーシェル多層膜球の光学応答の研究に着手した。数値計算を可能とするため、Mie散乱の効率を一般的に計算できるプログラムを構築した。そのプログラムを使って、励起子吸収を示す球形誘電体ナノ粒子の計算を行ったところ、散乱スペクトル及び減光スペクトルにFano共鳴が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平面多層膜系でのFano共鳴については、誘電体のみの多層膜系のみならず金属―誘電体多層膜についても、入れ子構造の多重Fano共鳴を証明することができ、入れ子構造多重Fano共鳴の一般性を指摘できた。さらに別の角度から、局所場の振舞いを探るために、球形粒子に構造を切り替え、コアーシェル多層構造の光学応答を解析できるプログラムを構築することができた。今後、平面多層膜系と、コアーシェル粒子系の類似点、相違点を明らかにすることにより、近接場レベルでFano共鳴の発現メカニズムをさらに深く追求できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今年度開発した球形コアーシェル構造の光学応答の計算プログラムを最大限に活用し、Fano共鳴を発現できる様々な構造を探る。さらに、特に近接場の振舞いに特異性がみられ、将来応用の可能性が高いと思われる構造を選び、詳しく近接場の振舞いを解明する。 (2)球形コアーシェル構造の近接場を蛍光分子を用いて検出できる可能性がある。そのことを念頭に起いて、蛍光分子を双極子と仮定した発光スペクトルの計算を行う。近接場の振舞いと発光スペクトルとの相関関係を明らかにし、近接場検出のための指針を得る。 (3)平面多層膜系で示唆された多重Fano共鳴について、Coupled-Mode理論による裏付けを行う。 (4)平面多層膜系と球形コアーシェル系での、Fano共鳴発現メカニズムの類似点と相違点を明確にし、それぞれの応用の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染が終息しないことにより、国内外の国際会議・学会への出張が困難な状況にあったため、特に旅費の支出がなかった。また、今年度は理論解析、数値計算を主として実施したので、物品費の支出が低く抑えられた。次年度には、海外出張も再開が可能と見込まれるので、旅費も有効に使用する予定である。
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