研究課題/領域番号 |
22K04982
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
叶野 翔 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (00742199)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 照射誘起非晶質化 / イオン照射 / M23C6 |
研究実績の概要 |
近年の原子力材料研究では、酸化物分散強化鋼に代表されるように、材料中に微細析出物を分散させることで、種々の材料特性の改善が図られている。これ故、材料中の微細析出物の照射下相安定性については、重要な評価項目として認識されており、世界的なムーブメントが起きている。材料中の微細析出物(炭化物、酸化物、窒化物)の照射下安定性については、1980年代より、その研究骨格が構築されてきており、アンチサイト欠陥形成(トポロジカルディスオーダリング)、ケミカルディスオーダリング等、結晶の長周期構造の乱れに端をなした系のエントロピー増加が現象を制御するキーファクターとして認識されている。これらより、本申請では、原子分解能解析による原子力材料中の微細析出物の照射誘起非晶質化の機構解明を研究目的とし、そのモデル材の作製と照射組織発達を評価した。 令和4年度は核融合炉構造材料のF82H鋼中に存在する炭化物を対象とし、そのモデル材としてクロム(Cr)を主成分とする炭化物のインゴットを真空誘導加熱炉を用いて作製した。ここでは、その化学組成を制御することで、照射誘起非晶質化の発現挙動に対する炭化物の化学組成影響を調査した。その結果、照射誘起非晶質化は炭化物中の固溶タングステン(W)濃度に強く依存し、その発現濃度が>10 at.%Wであることを実験的に明らかにした。なお、当該炭化物インゴットによる格子定数のW濃度依存性の評価結果では、実機材料中でのCr系炭化物の固溶W濃度は~10 at.%と見積もられており、ここで明らかになった実験結果は、これまでに、F82H鋼に対する中性子やイオン、電子線照射で確認された炭化物の非晶質化を矛盾なく説明できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は核融合炉構造材料のF82H鋼中に存在する炭化物を対象とし、そのモデル材としてクロム(Cr)を主成分とする炭化物インゴットを真空誘導加熱炉を用いて作製した。なお、ここで対象とする炭化物については、粉末冶金学的にも製造が困難であるのだが、その化学組成の特徴を理解することで、冶金学的手法によって1 kg程度の炭化物インゴットの製造に成功しており、この学術的な意義は大きい。さらに、冶金学的な手法によって炭化物インゴットの製造の見通しが明らかになったことから、本研究では、炭化物の化学組成を制御し、照射誘起非晶質化に対する化学組成影響を調査した。なお、材料中に存在する第二相粒子の場合、その化学組成影響の系統的評価は極めて困難であり、その研究意義、インパクトの高い研究知見と言える。 その結果、照射誘起非晶質化は炭化物中の固溶タングステン(W)濃度に強く依存し、その発現濃度が>10 at.%Wであることを実験的に明らかにした。なお、当該炭化物インゴットによる格子定数のW濃度依存性の評価結果では、実機材料中でのCr系炭化物の固溶W濃度は~10 at.%と見積もられており、ここで明らかになった実験結果は、これまでに、F82H鋼に対する中性子やイオン、電子線照射で確認された炭化物の非晶質化を矛盾なく説明できることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、化学組成を制御した5種類の炭化物インゴットを作製し、当該試料に対してイオン照射を行い、照射誘起非晶質化に対する化学組成の影響を明らかにした。令和5年度は、これらのイオン照射材の原子分解能の微細組織観察を通し、トポロジカル/ケミカルディスオーダリングの評価を通し、照射による微細組織発達の様子を明らかにする。さらに、照射量や照射温度を制御したイオン照射実験によって、照射誘起非晶質化の発現条件について系統的なデータベースを整備する。 一方で、第一原理計算等の計算科学的アプローチを駆使することで、なぜ、高W材料のみで非晶質化が発現するのか? についての学術的な問いの解明に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の研究実施に必要な物品費、旅費を執行したものの、予定額と実支出額に差額が生じた。なお、研究は概ね計画通りに進捗しており、この差額の発生に伴う研究推進への影響はない。 また、上記の差額は、令和5年度の物品費として使用する計画である。具体的には、試料原材料や加工消耗品として利用する。
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