研究課題
近年の原子力材料研究では、酸化物分散強化鋼に代表されるように、材料中に微細析出物を分散させることで、種々の材料特性の改善が図られている。これ故、材料中の微細析出物の照射下相安定性については、重要な評価項目として認識されており、世界的ムーブメントが起きている。材料中の微細析出物(炭化物、酸化物、窒化物)の照射下安定性については、1980年代より、その研究骨格が構築されてきており、アンチサイト欠陥形成やケミカルディスオーダリング等、結晶の長周期構造の乱れに端をなした系のエントロピー増加が非晶質化のトリガーと認識されている。これらより、本申請では、原子分解能解析による原子力材料中の微細析出物の照射誘起非晶質化の機構解明を研究目的とし、そのモデル材の作製と照射組織発達を評価した。ここでは、核融合炉構造材料中に存在する炭化物を対象とし、そのモデル材としてCrを主成分とする炭化物インゴットを真空誘導加熱炉にて作製した。また、これらの化学組成を制御することで、照射誘起非晶質化に対する炭化物の化学組成影響を調査した。その結果、照射誘起非晶質化は炭化物中の固溶W濃度に強く依存し、その発現濃度が>10 at.%Wと推定された。なお、格子定数のW濃度依存性の評価結果では、実機材料中での炭化物組成がCr13Fe9W1C6で表現され、これは、アトムプローブ分析の結果と良い一致を示した。これらより、モデル材中における照射誘起非晶質化はWの高濃度化に由来した不安定化であったのに対し、実機材料中の微細炭化物では、多元素化に伴う系の混合エントロピーの増加に起因した照射誘起非晶質化と考察された。これ以外にも、EELS法を駆使した結合状態評価、ならびに、Voronoi解析を用いた局所結晶構造解析を通し、照射誘起非晶質化に伴う原子スケールの変位を可視化することに成功した。
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