研究課題/領域番号 |
22K04987
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真鍋 勇一郎 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (50533668)
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研究分担者 |
和田 隆宏 関西大学, システム理工学部, 教授 (30202419)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射線誘発がん / 突然変異 / DNA2重鎖切断 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
4段階ある各階層の進展についてそれぞれ記述する。 【階層1】遺伝子 (遺伝子変異):DNA損傷の中でも深刻な損傷と考えられているDNAの2重鎖切断(DSB)に注目し,細胞内に発生するDSB数を予測する数理モデルの構築を行い、Russelらのメガマウス実験の再現を試みた。結果として、WAMモデルと基本的には同様の形の解、すなわち、突然変異を増やす機構と減少させる機構を仮定した微分方程式に従うことが分かった。また、パラメータをフリーフィッティングではなく、実験結果もしくは確率分布より推定出来た。その際反応係数の線量率依存は線量率に反比例とする方がメガマウス実験の再現度が上がる可能性が示唆された。 【階層2】染色体 (染色体異常):過去の文献をいくつか読み、知見を得た。今後定式化を進める 【階層3】細胞 (細胞のがん化および悪性腫瘍形成):放射線による老化の概念を数理モデルの観点から再検討した。発がんに対する放射線の影響をアーミテージ・ドール多段階理論に基づいて扱った。がん罹患率の計算式から、放射線量は時間で説明できることがわかった。急性および慢性被曝の放射線誘発老化について、老化の指標として年齢別がん罹患率を用いて説明した。その結果、加速老化は線量率に関係し、早発老化は累積線量に関係することがわかり、放射線誘発老化を簡単かつ自然に解釈できるようになった。このアプローチの有用性は、低線量率の放射線を慢性的に浴びたマウスのがん有病率データにこの式を適用することで実証された。 【階層4】個体 (寿命短縮):環境科学研究所で実施したマウスの低線量率連続照射実験から得られたデータ、すなわち、がん発症データと寿命データを用いて複合解析を行った。実験的に評価することが困難ながん進行期間の長さを推定した。その結果、平均的ながん進行期間は、対照群で173日、照射群で103日であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4段階わけた階層のうち染色体異常を除く各段階で具体的な定式化と計算結果を得ることができ、知見を得た。また、成果として論文発表も行った。
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今後の研究の推進方策 |
各段階にわけて記述する。 【階層1】遺伝子 (遺伝子変異):DNA2重鎖切断を2回の放射線によって1重鎖切断が2回起こった場合と、1回の放射線で2重鎖切断が起こった場合に分けて、数理モデルを作成し、実験データを再現するようにパラメータを決める。突然変異をDNA2重鎖切断と直接結びつける数理モデルを深化させる。具体的には倍化線量等の計算を行い、既存の実験や推定結果との整合を調べると共に、マウス以外の実験にも適用し、理論の汎用性を確認する。 【階層2】染色体 (染色体異常):染色体は遺伝子の集まりであるので階層1の結果から推定する。 【階層3】細胞 (細胞のがん化および悪性腫瘍形成):環境科学研究所以外の実験データにも適用し、汎用性の確認を行う。 【階層4】個体 (寿命短縮):今年度はがんを区別なくまとめて解析した。しかし、血液がんや固形がんなど、がん種が異なれば、その特徴も異なる。この研究の次のステップとして、がん種間の違いを考慮し、同様の複合分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張に関しては、国際学会に行く予定であったが、他用務、オンライン開催等のため執行出来なかった。 国内出張については環境科学技術研究所に行く予定であったが、先方の都合で、ネットミーティングになったため、執行出来なかった。 令和6年度は欧州での国際会議(EPRW2023等)、米国での学会(IDEA2023等)、国内での国際会議(ICRP2023等)や国内学会(原子力学会、放射線影響学会等)に参加する予定であり、執行が進むと考えられる。
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