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2023 年度 実施状況報告書

高感度コヒーレント2重共鳴分光法によるパラ水素の量子効果の解明と星間化学への応用

研究課題

研究課題/領域番号 22K05017
研究機関群馬大学

研究代表者

住吉 吉英  群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (50291331)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード分子クラスター / コヒーレント2重共鳴分光 / ライトシフト / 分子間振動ダイナミクス / 電気双極子モーメント
研究実績の概要

令和5年度は,12.4-18GHz帯のマイクロ波ホーンアンテナを購入し,前年度に完成したマイクロ波2重共鳴分光装置の観測可能領域を低周波数側に拡張した.この装置を用いてクラスターのマイクロ波二重分光実験を行った.実験は,生成が比較的容易で,既に純回転遷移周波数が報告されているアンモニア分子とアルゴン原子Arから成るAr-NH3クラスターを対象に行った.1つの回転量子状態を共有する2種類のa-type遷移の組を選んで,マイクロ波二重共鳴分光実験を行い,ACシュタルク効果の一種であるライトシフトを観測した.この実験では,アンモニア分子の窒素原子核に由来する核四重極子による超微細分裂の成分を分離して2重共鳴分光を観測する事に成功した.電気双極子モーメントが正確に分かっている硫化カルボニルOCSのライトシフトの周波数から,二重共鳴で用いたマイクロ波の正確な電場強度を見積もり,その情報とAr-NH3で観測したライトシフトの離調度に対する遷移周波数変化から,Ar-NH3の電気双極子モーメントのa軸成分を,0.334 Dと決定した.Nelson Jr.らによる先行研究では0.280 Dと報告されている.CCSD(T)/aug-cc-pVTZによる高精度ab initio計算の値は,最安定構造において0.381 Dと見積もられ,大振幅振動運動の影響を考慮すると,このab initio計算結果は我々の決定した値を支持すると考えられる.
同様の実験をクリプトン原子KrとOCSから成るKr-OCSクラスターについても行い,電気双極子モーメントのb軸成分を0.388 Dと決定した.2重共鳴実験で新たに純回転遷移を観測する事で,先行研究よりも精度の高い回転定数を決定する事ができた.決定した回転定数から慣性欠損の値を見積もり,Kr-OCSの分子間変角振動運動の周波数を25.3 cm-1と見積もった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

令和5年度は,前年度に開発したマイクロ波2重共鳴分光装置を用いて,2種類の分子クラスターを対象に,ACシュタルク効果の一種であるライトシフトを観測する事ができた.これにより,開発した分光装置が分子クラスターに対して2重共鳴スペクトルを観測するのに十分な感度を有している事を確認した.また,ライトシフト効果から分子クラスターの電気双極子モーメントの値や,分子構造,および分子間振動運動に関する情報を引き出せる事も確認できた.これらの情報は,分子間相互作用ポテンシャル曲面を精度良く決定するうえで有用な情報であり,本研究の遂行において重要な役割を果たすものである.
上述のとおり,本研究における主要な装置であるマイクロ波2重共鳴分光装置が,分子クラスターに適用可能であり,尚且つライトシフト効果を観測するのに十分な分解能と検出感度を備えている事を実験的に検証できた事から,本研究がおおむね順調に進展していると判断した.

今後の研究の推進方策

水素分子と,星間分子であるHClやHFから成る分子クラスターを対象に,開発を終えたマイクロ波2重共鳴分光装置を用いてライトシフトの観測を行う.試料の混合比やマイクロ波照射タイミングなどを調整する事により分子クラスターの生成条件を最適化し,水素分子と星間分子の1対1クラスターだけでなく,多数の水素分子が結合した水素分子クラスターの検出を試みる.これらの分光データから,パラ水素分子クラスターの分子間相互作用ポテンシャル曲面を決定するための分光データの収集を進める.
実験と並行して,令和4年度に開発した,分子クラスターの回転遷移周波数とその超微細分裂成分の情報から分子間相互作用ポテンシャルを決定するための解析プログラムの拡張を行う.現在の仕様は,1つの核スピンを含む系にしか適用できないが,2つ以上の核スピンによる超微細構造分裂にも対応できるように拡張し,パラ水素クラスターだけでなく,オルト水素クラスターの超微細分裂データを含めた同時解析も行えるようにする.この同時解析によって,パラ水素分子とオルト水素分子間における分子間相互作用の違いを見出し,パラ水素分子の量子効果発現のメカニズム解明を目指す.

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Laboratory and astronomical discovery of the cyanovinyl radical H<sub>2</sub>CCCN2023

    • 著者名/発表者名
      Cabezas C.、Tang J.、Agundez M.、Seiki K.、Sumiyoshi Y.、Ohshima Y.、Tercero B.、Marcelino N.、Fuentetaja R.、de Vicente P.、Endo Y.、Cernicharo J.
    • 雑誌名

      Astronomy &amp; Astrophysics

      巻: 676 ページ: L5~L5(9 pages)

    • DOI

      10.1051/0004-6361/202347385

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] マイクロ波2重共鳴分光法によるKr-OCSクラスターの電気双極子モーメントと分子構造に関する考察2024

    • 著者名/発表者名
      大沢悠太朗,住吉吉英
    • 学会等名
      日本化学会第104春季年会(2024)
  • [学会発表] マイクロ波2重共鳴分光法を用いたKr-OCSクラスターの ライトシフト効果の観測、および電気双極子モーメントの見積もり2023

    • 著者名/発表者名
      大沢悠太朗,住吉吉英
    • 学会等名
      日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会
  • [学会発表] He-COの3 次元分子間相互作用ポテンシャル曲面の決定2023

    • 著者名/発表者名
      大月康平,貴舩亮大,住吉吉英
    • 学会等名
      第23回分子分光研究会

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公開日: 2024-12-25  

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