研究課題/領域番号 |
22K05021
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井内 哲 名古屋大学, 情報学研究科, 助教 (50535060)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体 / 量子化学 / 励起状態 / モデルハミルトニアン |
研究実績の概要 |
研究代表者は、鉄(Ⅱ)錯体のプロトタイプとして[Fe(bpy)3]2+錯体を対象に、励起状態を高速計算できるモデルハミルトニアンを開発してきた。本研究課題では、新たにクロム(Ⅲ)錯体を対象としてとりあげることでこのモデルハミルトニアンの適用範囲を広げる。それにより、種々の遷移金属錯体における光励起後の緩和過程を解明するための分子シミュレーションに適用できる方法へと深化させることを目標としている。 2年目である令和5年度は、前年度までの準備をもとに、研究協力者として安東秀峰准教授(山形大学)に参加していただき、アセチルアセトナトacacを配位子とするCr(acac)3に対してモデルハミルトニアンの構築を進めた。具体的には、Cr(acac)3錯体の4重項の基底状態と最低励起状態の構造を結ぶ経路に対して実行した高精度量子化学計算の結果を参照データとして、フィッティングでモデルハミルトニアン中のパラメータを決定した。次に、励起状態の安定構造やポテンシャルエネルギー曲線を計算することで、構築したモデルハミルトニアンの精度を調べた。この一連のプロセスで、モデルハミルトニアンの欠点や計算プログラムにおいて修正すべき点、フィッティングで考慮すべき点などを明らかにするとともに、これらの問題点に対する解決策を模索・適用してパラメータフィッティングと精度検証のプロセスを繰り返し実施した。 現報告時点では、4重項の基底状態と最低励起状態の構造を結ぶ経路に対して妥当なポテンシャルエネルギー曲線を計算できるモデルが構築できたが、励起状態の安定構造の再現性が不十分である問題点が解決すべき課題として残っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和5年度には、Cr(acac)3錯体のモデルハミルトニアンの構築を概ね終了させ、論文等にまとめることを目標にしていた。しかし、研究実績の概要で述べた通り、励起状態の安定構造を妥当に再現するという観点において、モデルハミルトニアンの精度が不十分と考えられるため、現状では安定構造の情報も参照データに含めた種々のフィッティングを模索し続けている。この過程では追加のプログラムの整備も伴うために想定以上の時間を費やしており、現状ではモデルハミルトニアンを構築中の段階が続いている。その結果、分子動力学シミュレーションを用いたモデルハミルトニアンの検証等も実施できていない。以上のことから、遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
進捗は遅れているが、現時点では研究の方針自体を大きく変更するなどの検討は不要と考えている。これまでに整備した計算プログラムを用いて、安定構造の情報も参照データに含めたパラメータフィッティングによって、引き続き妥当なモデルハミルトニアンの構築を目指す。並行して、モデルハミルトニアンを用いた非断熱動力学計算の準備を進める。具体的には、鉄(Ⅱ)のプロトタイプ錯体に対して整備した非断熱動力学計算のプログラムを基盤に、金属種と配位子が異なることに伴って修正・追加しなければならない箇所を整備する。モデルハミルトニアン構築後は、新しく購入予定のワークステーションや名古屋大学のスーパコンピュータシステム等を利用して、すぐに非断熱動力学計算の実施に移る。また、クロム(Ⅲ)以外の錯体についてもモデルハミルトニアン構築を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目である令和5年度は、妥当なモデルハミルトニアンが構築できた頃に、分子動力学シミュレーションを多用する目的で新しいワークステーションの購入を予定していた。しかし現在までの進捗状況で報告した通り、モデルハミルトニアンの開発が遅れて分子動力学シミュレーションを用いることができなかったことから、ワークステーションの購入は遅らせることとした。残額については、モデルハミルトニアンの開発状況に応じて適切な時期に令和6年度の物品費を合わせて高性能のワークステーションの購入を検討する。また、成果がまとまった段階で学会発表等にかかる旅費にも利用する予定である。
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