現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまで我々が開発を行ってきた誘電率依存・電子密度汎関数(DFT)法および有機薄膜太陽電池デバイス・モデルを用いて、Non Fullerene Acceptor (NFA)の有機薄膜太陽電池中での振る舞いを明らかにすることを目指している。 NFAの振る舞いを調べるためには、その電子状態を詳細に知る必要がある。NFAは光を吸収して励起状態となる。そのため、第一原理シミュレーションによって NFAの励起状態を精密に扱うことが重要となる。そのため、本研究では、励起状態の記述に優れた誘電率依存DFT法を用いる。誘電率依存DFT法では、非局所的な交換相互作用(Hartree-Fock Exchange項)は材料の誘電率に反比例する。つまり、誘電率依存DFTの中では、汎関数の形はターゲットとなる材料に応じて変化する。このような誘電率依存DFTの特性が機能性分子の励起状態を記述することに適していることを明らかにしてきた。一方、最近の誘電率依存DFT法の研究から、分子の励起状態をより良く記述するためには、誘電率依存DFTの短距離相互作用の記述精度を向上させることが重要であること判明した。また、複数の色素分子に対して短距離相互作用に注目したDFT計算を実施することにより、実験値をより良く再現できることも明らかにした。これらの研究結果を論文としてまとめ、査読付き国際ジャーナル上で報告した(RSC Advances, 12, 34685, 2022, Chem. Phys. Lett. 802, 139740, 2022.)。さらに、短距離相互作用のより理論的な解析についても、現在、論文としてまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を向上させるためのブレークスルー技術として、NFAに注目した研究が多数報告されている(例えば reviewとして、Joule 2, p621, 2018, Mater. Chem. Front. 5, p2907, 2021.)。国内の研究グループからもNFAに対する関心は高い。(Chemical Science, 11, p3250, 2020.)。よって、国内外でのNFAへの注目度は非常に高いと考えられる。しかし、有機薄膜太陽電池に対してNFAが果たしている役割についての理解は充分でない。本研究は、有機薄膜太陽電池中でのNFAの振る舞いを明らかにすることを目指す。そして、トライ&エラーを超えた有機薄膜太陽電池の材料開発の基盤を整備することを目標とする。そこで本研究では、NFAの電子状態を調べるために第一原理シミュレーションを実施する。 NFAの電子状態を調べるために、本研究では、励起状態の記述に優れた誘電率依存DFT法を用いる。2022年度では、誘電率依存DFT法による色素分子の励起状態記述能力向上のために短距離相互作用に注目した研究を行い、より良く色素の励起状態を記述することを可能とした。 2023年度では、NFAに用いられるような色素分子に対して開発した手法を適用することにより、その電子状態の詳細を明らかいにしていくことを予定している。
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