研究課題/領域番号 |
22K05039
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
松岡 秀人 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 特任准教授 (90414002)
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研究分担者 |
大須賀 秀次 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (50304184)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機EL / 励起三重項状態 / りん光 / ESR |
研究実績の概要 |
励起三重項状態からの発光(りん光)を利用した高効率材料が開発され、商用利用もされているが、レアメタルを用いるため材料としては高価で、材料設計にも制限が多く、低コストで高効率な次世代りん光性メタルフリー材料の開発が期待されている。重原子を含まない純有機物質は、基本的に室温でりん光を発しないという常識があった中で、研究代表者らはチオフェン環を縮合させたフェナジン系に対し、りん光が室温デバイス中で得られることを見出してきた。しかし、チオフェンやフェナジン単体では室温でりん光を示さず、π共役分子のスピン軌道相互作をどのように評価すべきか自明ではない。また、チオフェン環の向きで、りん光性が劇的に変化する理由も説明できず、スピン軌道相互作用にπ共役連結法がどのように作用するのか理論的説明が必要である。 本年はまず、平面性とスピン軌道相互作用の大きさとの相関を明らかにするため、平面構造を有する縮環フェナジン系(市販)のESRならびに発光測定と量子化学計算を行うとともに、ねじれ構造により平面性を下げた系の合成を行った。平面構造を有する縮環フェナジン系の実験等から、室温でりん光を獲得する上で、重原子効果が期待できる硫黄(チオフェン)の導入は必須でないことを明らかにした。一方で、フェナジンの窒素原子上に電子スピン密度が局在したとき、室温りん光が得られた。また、ねじれ構造により平面性を下げた系の合成も順調に進み、ESRならびに発光測定と量子化学計算を行った結果、フェナジン(窒素原子)を含まない系の測定ではりん光を得ることができず、りん光を得るために窒素原子が必須であることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ESRは電子スピンを検出するため、実験的に電子スピン密度分布を決定する唯一の実験手法である。しかし、どの原子核上に電子スピンが局在しているかを明らかにするには、NMR測定の併用が不可欠となり、通常はマイクロ波とラジオ波を用いた二重共鳴測定が行われる。本研究では短寿命励起種の電子スピン密度分布の実験的決定を可能とするため、二つのマイクロ波を用いたEDNMR(ESR-Detected NMR)装置の構築を行った。高分解測定を可能とするため、国内唯一の高周波(94 GHz)・高強度パルスESR装置を改良し、水和構造を有するMn錯体を標準試料としてEDNMR観測に成功した。また、硫黄あるいは窒素原子を有する系の合成も順調に進み、研究期間2年目に予定していたESRパラメータの決定も行った。
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今後の研究の推進方策 |
硫黄原子は電子スピン密度をどの原子核上に局在させるかを制御する上で有用であり、一方で室温りん光を得るには窒素原子が必要であることを明らかにした。硫黄原子の位置が電子スピン密度分布に影響を与える理論的説明を、量子化学計算により今後明らかにしていく。また、窒素原子を含む他の系についてもESRならびに発光測定と量子化学計算を行い、りん光効率と窒素原子核上のスピン密度との関係を定量的に解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学共同利用機関(分子科学研究所)の施設を利用することで、液体ヘリウム等の寒剤費用に予定していた支出を軽減することができた。令和5年4月に研究代表者は所属を変更するため、翌年度分として請求した助成金と合わせ、異動に伴う実験環境の再整備を行う。
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