研究課題/領域番号 |
22K05047
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
芦沢 実 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (80391845)
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研究分担者 |
間中 孝彰 東京工業大学, 工学院, 教授 (20323800)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高温有機半導体 / 金属錯体ポリマー / ジチオレン配位子 / 電気伝導度 / 熱起電力 |
研究実績の概要 |
高温下で安定に動作する有機デバイスを実現する新規な有機金属錯体ポリマーを開発することを目的としている。 本年度は鍵となる配位子の合成を行った。シアノエチル基を保護基として用いた1,3ジチオールチオン骨格と、チオエフェン及びチエノチオフェンのアルデヒド体をトリエチルホスファイトを用いてカップリング反応によりジチオレン系配位子を1段階で合成した。その後シアノエチル基を塩基で脱保護して、ニッケル塩と反応させることで標的のジチオレンを配位子とするニッケル錯体ポリマーの合成に成功した。ここで種々の脱保護する塩基やニッケル塩を検討し、反応条件を最適化した。合成したニッケル錯体は元素分析を行って評価した。さらに合成した錯体のペレットを作成し、4端子法を用いて室温での電気伝導度の評価を行った。その結果いずれの錯体も10S/cm程度の比較的良好な導電性を示した。この導電性は、金属錯体ポリマーの電子供与部位と電子受容部位の間の自己ドープに起因していると考えている。また現在は室温での熱起電力測定を行うとともにキャリアがホールか電子かを評価している段階にある。合成したニッケル錯体ポリマーは、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒に比較的溶解性があり、溶液プロセスでの薄膜の作成に成功した。 またチオフェンやチエノチオフェンなどのスペーサーを含まないリファレンスとなる、ニッケル錯体ポリマーの合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では中心金属としてニッケルのほかに、パラジウムや銅を予定していたが配位子の合成が予定より遅れ、現在はニッケルのみを評価している。配位子の合成経路に対しては当初は3段階の合成を考えて検討していた。しかしトリアルキルホスファイトを用いることで原料の1,3ジチオールチオンとチオフェン類のアルデヒド体が直接カップリング反応することを見出し、配位子を1段階で合成することができた。この合成経路を用いてジチオレン系配位子のスペーサー部位に、種々のチオフェンユニットを挿入することが可能になった。さらに脱保護によりニッケル以外の金属を容易に配位させることができると考えている。したがって本研究の進捗状況について、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は合成に成功した配位子を用いて、ニッケル以外の金属錯体ポリマーへ展開する。元素分析やX線光電子分光測定を行い錯体のキャラクタリゼーションを行う。また酸化還元電位や可視紫外吸収スペクトルを測定して、基礎物性を調べる。 さらに室温での電気伝導度や熱起電力等の測定を行い熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電能を評価する。同時に熱重量分析や示差操作熱量分析により、熱的安定性について明らかにする。室温伝導度の値を鑑みると、大きな熱起電力が期待できる領域に位置しているため、まず100℃程度の領域において熱電変換素子としての応用を試みる。 その後さらに高温領域に展開していく予定である。ここで電気伝導度や熱起電力は高温領域における温度依存性の測定を行う。また作成した薄膜のモルフォロジー変化について明らかにする。さらに酸化シリコン付きのシリコン基盤を用いて電界効果トランジスタを作成し、ゲート変調の有無を調べてキャリアの輸送特性を評価する。測定は室温から高温領域(約200℃)に至る領域で行う。X線構造解析や原子間力顕微鏡による薄膜構造を詳細に明らかにして、ジチオレン配位子間に挿入したチオフェンスペーサーの輸送現象に及ぼす影響を明らかにする。高温領域での薄膜構造評価に関して、研究分担者の開発した薄膜中のキャリア輸送を可視化できる空間電荷変調分光法をもちいて評価を行う予定である。 高温領域において安定に動作しない場合は、分子設計にフィードバックしてスペーサー部位の設計の見直しを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況を鑑みて、次年度の支出額が多くなると判断したため次年度使用額が生じた。研究を効率的に推進するために、次年度は高額の試薬や器具の購入、また自作の装置系を組み必要があるため、この費用として使用する。
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