研究課題/領域番号 |
22K05049
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中農 浩史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20711790)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電気化学 / 固液界面 / 理論計算 / 分子動力学シミュレーション / QM/MM |
研究実績の概要 |
電池における閉回路/開回路条件が電気化学界面における電解液の液体構造とダイナミクスに対しどのように影響を与えるかを理解するため、閉回路/開回路条件を同じ理論的枠組みのもとで取り入れることの出来る古典分子動力学シミュレーション法を開発した。この方法では、先行研究では正しく考慮されていなかった金属電極の分極効果がどちらの回路条件でも等しく取り入れられるため、それまでは混同されていた界面の構造・ダイナミクスに対する"回路条件の違いによる効果"と"金属電極の分極効果"を分離して調べることが可能になった。界面のダイナミクスは、電極の分極効果というより回路条件の違いにより大きく変化し、開回路条件下では非平衡溶媒構造による不十分な静電遮蔽により電解液分子・イオンのダイナミクスが大きく加速されることを示した。 電極-電解液界面上の分子の構造と電子状態は電極と周囲の電解液分子・イオンとの相互作用、さらに印加電圧から大きく影響を受け、反応性や光応答性などが変化する。この効果を定量的に調べるため、注目する界面分子のみを量子化学的に扱い、電極と電解液分子・イオンを古典的に扱い、さらに印加電圧の効果を取り入れることの出来る定電圧QM/MM法を開発した。動きの遅い電解液分子・イオンの熱運動効果を十分に記述するための工夫も取り入れることで、従来法では非常に困難であった電気化学界面現象に対する統計力学的な議論も可能である。アセトニトリル電解液中の金属電極上のキノン分子に対し計算を行い、分子の構造と電子状態が界面における相互作用と印加電圧によりどのように変化するかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の対象である電気化学界面、より具体的には電池の電極-電解液界面を扱うための方法開発にあたり、まずは対象とする系そのもののより深い理解が必要となった。そのため、電極材質そのもの(固体バルクと表面)の研究も同時に進めており、方法開発に投じることが出来た研究時間が予定よりも減ったため。
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今後の研究の推進方策 |
電極と反応分子を量子化学的に扱い、その他の電解液分子・イオンを古典的に記述することで電気化学界面上の反応を調べることの出来る、新規"電子状態計算/分子動力学シミュレーション"ハイブリッド法開発を2023年度中に完成させる。その際、電極電位を制御できるように定式化・プログラミング実装を行う。電気化学界面における基本的な量(Potential of Zero Charge, 微分静電容量など)を計算し、実験計測値や先行理論計算値と比較して方法の正しさを検証することに加え、各種リチウムイオン電池の正極-電解液界面に対して計算を実行し、各種界面についてのデータを生成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
方法開発のための計算機を購入する予定であったが、必要な計算機は所属機関で利用可能なもので間に合ったため購入を見送った。繰り越し分は、方法開発が一段落ついた後のデータ生成段階で使用する予定の計算機購入にまわす計画である。
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