研究課題/領域番号 |
22K05050
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菅原 武 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (20335384)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クラスレートハイドレート / 潜熱蓄熱材 / イオン伝導 / プロトン伝導 |
研究実績の概要 |
セミクラスレートハイドレート(SCH)(アンモニウム塩などの電解質から生成するためイオンハイドレートとも呼ばれる包接水和物の一種)は潜熱蓄熱材料として期待されている材料の1つである。本研究課題では、SCH生成のモニタリング技術の開発を目指し、SCHの基礎的な電気化学的物性および特性、機能を明らかにする研究に取り組んだ。本年度は、電極間に臭化テトラブチルアンモニウムをゲストとしたSCH単結晶を調製し、結晶粒界の影響など別要因を排除したSCH結晶内の真の電気伝導性を明らかにした。また、「何がどのようにSCH固体内を伝導しているのか?」を明らかにするため、重水を用いて調製したSCHにおいても同様の測定を行い、同位体効果などからプロトンがSCH結晶内での伝導種であることを示した。これらの結果から、SCH結晶格子を構成する水分子間をプロトンがホッピングする、すなわちプロトン伝導がSCH結晶内で起きていることを実験的に確認した。得られた成果は、原著論文として投稿し受理され、すでにオンライン上で公開されている。 臭化物イオン以外のハロゲン化物イオンを用い調製した各種SCHにおいても同様の測定を行い、水分子とともにSCHを構成するアニオン種がプロトン伝導に大きく影響することも明らかにした。ハロゲン化物イオン以外のカルボン酸イオンなどを用いたSCHについても、測定を行い、水分子とアニオン、カチオンそれぞれの相互作用がどのようにプロトン伝導に影響するのか、明らかにする予定である。今後、モニタリング技術だけでなく、プロトン伝導性を活かした技術への展開も視野に入れ、プロトン伝導性を高めることを指向した研究も実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハロゲン化物イオンをアニオンとする第四級アンモニウム塩を用いて、セミクラスレートハイドレート(SCH)単結晶を調製し、電極間の有効体積に準安定相や結晶粒界の存在しない条件で、SCH結晶内の「真」の電気伝導性を明らかにした。当該研究課題申請時に危惧した通り、既報で報告されている電気伝導性は、結晶粒界の影響を大きく受けた結果であり、結晶の生成方法に大きく依存するものであった。 ハロゲン化物イオンのうち、臭化物イオンを用いた臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)系では、重水(D2O)と通常の水(H2O)を用いて、それぞれSCHを調製し、結果を比較した。その結果、TBAB SCHで見られる電気伝導は、プロトンが伝導種となり、SCH骨格の水分子間を移動していくプロトン伝導であることを明らかにし、論文誌上で発表した。臭化物イオン以外のハロゲン化物イオンで測定を行い、プロトン伝導による導電率がアニオン種に大きく依存することも明らかにした。現在、そのアニオン種依存性について、詳細な解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、ハロゲン化物イオンだけでなく、カルボン酸イオン、無機イオンなどSCHを構成するアニオン種を変更、もしくはアニオン種を複数混合し、異なるアニオン種を有するSCHのプロトン伝導性の違いを明らかにしたい。特に、SCH結晶内の水分子のダイナミクス、水分子とアニオン種の相互作用にフォーカスし、研究を行う。また、カチオン種を第四級アンモニウム塩から第四級ホスホニウム塩に変え、カチオンとアニオンの相互作用の影響を考察する。これらは、SCHの生成過程モニタリングや相変化を利用した各種センサーなどに利用するために重要な基礎データである。また、高いイオン伝導性を利用する電池材料への展開も考えられる。アニオン、カチオンを変えて得られた結果を総合的に判断し、より高いプロトン伝導度を有するSCHの開発へとつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体不足に伴う購入予定物品の納品遅れに起因する研究計画の変更とそれに伴う購入品の変更、参加予定であった国際会議の翌年への順延により経費執行に変更が生じた。研究計画そのものに遅れはほとんどなく、昨年度購入予定であったものを翌年度分の助成金と併せて購入する予定である。
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