研究課題/領域番号 |
22K05062
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小野 公輔 東京工業大学, 理学院, 准教授 (30579313)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ボロキシン / 動的変換 / 大環状化合物 / 分子内ボロキシン形成反応 |
研究実績の概要 |
ボロキシンは、高い熱安定性とルイス酸性を示すことから、材料の分子モチーフとして魅力的である。一方でボロキシンは、容易に加水分解を受けボロン酸となることが知られており、材料の化学不安定性の原因となっている。そこで本研究では、「ボロキシンの加水分解を構造変換につなげる技術」の開発を目指している。本年度は、リング構造に組み込まれたボロキシンの合成とその平衡挙動調査の解明を目指し研究を行なった。その結果、我々が設計、合成した大環状トリボロン酸を脱水すると分子内ボロキシン形成が分子間ボロキシン形成に比べ優先的に進行し定量的に三環性ボロキシンを与えることを明らかにした。続いてそこに水を加えると定量的に大環状トリボロン酸へと戻った。また、この構造変換が、柔軟性/極性/大きさの変換を伴うことを明らかにした。脱水/加水だけでなく温度を外部刺激とした動的構造変換も可能であった。対照実験として同条件でモノボロン酸のボロキシン形成について温度変化を調査したところ、全くボロキシン形成が進行しなかったことから、トリボロン酸特有の動的構造変換であると言える。このユニークなトリボロン酸からのボロキシン形成について、熱力学パラメータを算出しその駆動力を明らかにした。以上のように、脱水/加水もしくは昇温/降温による大環状構造と三環性構造の構造変換を達成した。目的としていたボロキシンの加水分解を構造変換につなげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、リング構造に組み込まれたボロキシンの合成とその平衡挙動調査の解明を目指し研究を行なった。まず、我々が開発したボロキシンテンプレート法により、3つのボロン酸エステルを有する大環状化合物を合成し、ボロン酸の保護基の脱保護を行ない大環状トリボロン酸を収率よく得た。続いて大環状トリボロン酸エステルを脱水したところ、定量的に分子内ボロキシン形成が進行することをNMR, MS, X-rayによる分析により明らかにすることができた。続いて、大環状構造と三環性構造の物性の違いを溶解性やGPC, 1H DOSYなど測定、分析により調査することで、柔軟性/極性/大きさに違いがあることを見出した。両構造体は、脱水/加水もしくは昇温/降温により変換できることを明らかにし、またリンカーで結ばれていないモノボロン酸とは異なるボロキシン形成挙動であることがわかった。トリボロン酸からのボロキシン形成とモノボロン酸からのボロキシン形成の違いを明らかにするために熱力学パラメータの算出を行い、考察を行なった。その結果、トリボロン酸からのボロキシン形成の方が、モノボロン酸からのボロキシン形成に比べエントロピー的に有利であることが明らかとなった。このことから、トリボロン酸からのボロキシン形成反応が分子間より分子内で優先して進行すること、またトリボロン酸からのボロキシン形成が高温で優先することはエントロピーの効果で説明できた。以上のように、脱水/加水もしくは昇温/降温による大環状構造と三環性構造の構造変換を達成し、その駆動力も明らかにすることができた。目的としていたボロキシンの加水分解を構造変換につなげることができ、順調に研究を遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、大環状トリボロン酸が分子間ボロキシン形成反応より分子内ボロキシン形成反応を優先して進行させ、三環性ボロキシンを与えることを見出し、その駆動力も明らかにした。このように当初提案していたようにボロキシンの脱水/加水を構造変換のトリガーとして利用できることを示せた。今後はまず、大環状トリボロン酸のボロン酸間をつないでいるリンカーの効果を明らかにする。また、本年度構築したこの構造変換ユニット間を連結し、新規ボロキシン材料につなげるために、ユニットの外側に修飾官能基を有する大環状トリボロン酸を設計し、その合成経路の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたよりも構造変換ユニットの合成がスムーズに進んだ。次年度は外部に官能基を有するユニットの分子設計および合成を詳細に検討するため必要となる有機/無機試薬が増えることが予想される。そちらに研究費を使用する予定である。
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