研究課題/領域番号 |
22K05065
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
迫 克也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90235234)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 分子フォトダイオード / シクロファン / 分子ワイヤ / カチオン応答性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単一分子エレクトロニクス素子として、①カチオン応答性高機能分子フォトダイオードを指向した新奇なシクロファン分子ワイヤを創製し、②その物性評価を行い、光誘起による整流性を調べ、カチオン応答性の違いにより整流性が制御されるかについて明らかにすることである。 2023年度は、ピレンの置換位置によるドナーとの電子的相互作用の違いについて評価するために、1-ピレニル基とは別に光増感部(P)として2-ピレニル基(2-pyrene)を組み込んだ [3.3]パラシクロファン架橋部にドナー部(D)として1,4-ジチアフルベン(DTF)を組み込んだD-B(P)-D三元系シクロファン(DTF-B(2-pyrene)-DTF)を合成した。ピレンとドナーとの距離による物性の違いを調べるために、シクロファン架橋鎖に導入するDTFドナーを1つとしたD-B(P)-one二元系シクロファン(DTF-B(1-pyrene)-one)も合成した。 DTF-B(2-pyrene)-DTFの第1酸化電位がピレン基を有しない母体のDTF-B-DTFよりも低電位シフトしたものの、DTF-B(1-pyrene)-DTFよりもシフト値が小さく分裂しなかったことから、ピレンの置換位置によってDTFドナーのエネルギー準位を変化させ、DTFドナーの酸化過程の段階的制御やDTFドナーのドナー性制御も可能であることを示唆している。 DTF-B(1-pyrene)-oneの発光スペクトル測定では、DTF-B(1-pyrene)-DTFやDTF-B(2-pyrene)-DTFのような完全な消光は起こらなかったことから、ピレンの光誘起によってピレンと遠隔に位置するDTFドナー間で光誘起電子移動していることが明らかになり、ピレンを光誘起電子移動部位としてシクロファンに組み込んだ光誘起電子移動分子ワイヤの可能性が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光増感部(P)としての2-ピレニル基(2-pyrene)を組み込んだ新規なD-B(P)-D三元系シクロファン分子(DTF-B(2-pyrene)-DTF)の合成に成功し、光増感部(P)としての1-ピレニル基と[3.3]パラシクロファン架橋部のDTFドナー間に光誘起電子移動が存在することが明らかになった。また、シクロファン架橋鎖に導入するDTFドナーを1つとしたD-B(P)-one二元系シクロファン(DTF-B(1-pyrene)-one)も合成した。 シクロファン分子ワイヤの合成には至らなかったが、シクロファン分子ワイヤの重要な合成中間体として、カチオン応答性部(SG)として4-ピリジル-フェニル基(4-Py-Ph-)を導入し、2つのDTFドナー部を組み込んだ新規なカチオン応答性配制御機能を有するD-B(SG)- Dシクロファン(DTF-Bis(4-Py-Ph-)-PCP-DTF)の合成に成功した。また、シクロファンダイマーの合成の予備実験として、段階的合成ルートと一段階合成ルートの2通り合成ルートで成功している。
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今後の研究の推進方策 |
シクロファンダイマーの合成の予備実験として、tetrathiapentalene-thione(TTP-thione)のような反応性ドナー部(reactive D)を経由する段階的合成ルートと一段階合成ルートの2通り合成ルートで成功しているので、シクロファンダイマーの合成法を再検討して、目的とするカチオン応答性配制御機能を有するD-B(P)-D-B(SG)-D三元系シクロファンダイマーを合成する。シクロファンダイマーの合成ルートを組み合わせてシクロファン分子ワイヤの創製に着手する。 また、シクロファンダイマーの蛍光分析による光誘起電子移動評価及び、カチオン添加の外的刺激を変化させた電気化学的測定、吸収スペクトル測定及びESR測定によりカチオン応答性機能について明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な高価な薬品を購入せず安価な原料から合成により供給し節約できたこと、研究室および所属研究機関で現有している試薬を用いるいることで、当初の予想以上に円滑に研究を進めることができたため、使用額が生じた。 本研究内容の性質上、合成実験に必要な合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)が、消耗品中の薬品・ガラス器具の経費が占める割合も比較的大きいので、令和6年度の使用計画は、繰り越し分を主に購入する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)に合算して使用することを計画している。 研究費は主に消耗品費として使用する予定である。これは有機合成を土台とする本研究内容の性質上、合成実験に必要な薬品類、ガラス器具等を購入する必要があるためである。また、得られた研究成果の学会発表のための国内旅費にも研究費の一部を割り当てる予定である。
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備考 |
名古屋工業大学研究者データベース https://researcher.nitech.ac.jp/html/166_ja.html?l=ja&k=&o=title&p=5
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