• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

多重励起子制御のためのπ-σ-πダイアド創成と固体アップコンバージョンへの展開

研究課題

研究課題/領域番号 22K05069
研究機関大阪公立大学

研究代表者

松井 康哲  大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90709586)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードアップコンバージョン / 三重項-三重項消滅 / エネルギー移動 / 多重励起子 / 太陽光利用
研究実績の概要

フォトンアップコンバージョンは,近赤外光などの今まで利用できなかった光を変換する分子技術であり,あらゆる光利用技術への適用が期待されている.本研究では,本研究では,σユニットによりπ共役系同士の距離・配向を三次元的に設計されたπ-σ-πダイアドに多重励起子を発生させ,そのスピン変換の能動的制御を試みる.さらに,π-σ-πダイアドの分子内TTAとエネルギー捕集を組み合わせることにより,固体でのアップコンバージョン(TTA-UC)に展開することを目的としている.
2022年度は,ポリマー系でのTTA-UCの展開を目的として研究を行った.まず,種々のポリマー媒体を検討したところ,ガラス転移点が低く,柔軟性の高いポリウレタン樹脂でTTA-UCを発現することがわかった.加えて,酸素ブロック能力が高いため,大気中においても脱気したジクロロメタン溶液に匹敵する三重項寿命を示すため,TTA-UCが進行していることがわかった.透明性も高いため,ガラスセルあるいはディスポセルに調製することで時間分解吸収スペクトルにより分子ダイナミクスを観測可能であることも明らかとなり,TTA-UC以外にも適用が期待できる.
また,新規アクセプターとして,蛍光量子収率が高いジケトフロフラン分子の合成も行った.蛍光量子収率が高いため,分子設計により三重項寿命を延ばせばTTA-UCへの適用が期待できる

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2022年度は,ポリマーに色素をドープした固体系でのTTA-UCの展開を目的として研究を行った.まず,ホストポリマー選定のためにアクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂等を検討したところ,ガラス転移点が低く,柔軟性の高いポリウレタン樹脂でTTA-UCが進行することがわかった.Stern-Volmer解析によりエネルギー移動速度を評価したところ,10^8 M-1s-1程度の値が得られ,溶液系に比べて1桁程度遅いものの十分な分子拡散が起こっていることが確かめられた.加えて,酸素ブロック能力が高く,大気に暴露しておいてもTTA-UCが進行し,エポキシ樹脂樹脂で封止することで酸素耐性も向上することが確かめられて.透明性も高いため,時間分解吸収スペクトルにより分子ダイナミクスを観測可能であることも明らかとなり,TTA-UC以外にも適用が期待できる.
また,白金ポルフィリン,アントラセン,ジフェニルアントラセンの3成分を添加したポリマーでは,三重項励起子がジフェニルアントラセンに捕集されることも明らかにできた.なお,時間分解吸収スペクトル測定により,励起子の捕集はBoltzmann分布に従うこともわかった.さらに,ジフェニルアントラセンを連結したπ-σ-πダイアドでは,三重項励起子の減衰挙動が異なることから,分子内TTAの進行も示唆されたため,当初の期待以上に研究は進行した.
また,新規アクセプターとして,蛍光量子収率が高いジケトフロフラン分子を合成し,基礎物性を評価した.より低いETを有し,アクセプターとして有用であることがわかったが,無置換体では三重項寿命が短いことも明らかとなった.分子設計により三重項寿命を延ばせばTTA-UCへの適用が期待できる.

今後の研究の推進方策

引き続きポリウレタン樹脂に色素を添加した系でのTTA-UCを検討していく.特に,ポリマー中でのTTA速度について,有機EL素子等でしばしば議論されている二分子再結合定数の決定法を参考にしてTTA速度を評価する.モノマー系での「分子間TTA」の速度定数と,ダイアド系での「分子内TTA」の速度定数を算出し,ダイアドの添加効果を定量化する.また,分子内TTAにおいて特異的に発生する三重項対を時間分解ESR測定により観測し,その立体構造解明を行う.
また,これまでに合成したπ-σ-πダイアドに加え,Si原子架橋による新たなπ-σ-πダイアドを合成する既に合成したダイアド分子をポリマーに添加し,TTA-UC特性を評価する.TTA速度定数とπ-σ-πダイアドの構造の関連性を明らかにし,より高効率な固体TTA-UCを実現する.

次年度使用額が生じた理由

研究機器の購入を予定していたが,半導体不足による価格の上昇や納期の遅延があったため2022年度は購入を見送った.2023年度に改めて検討予定である.
参加を予定していた国際学会は延期されたため,2023年度に参加予定である.

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Diphenyldihydropentalenediones: Wide Singlet?Triplet Energy Gap Compounds Possessing the Planarly Fixed Diene Subunit2022

    • 著者名/発表者名
      Nagaoka Tomoki、Matsui Yasunori、Fuki Masaaki、Ogaki Takuya、Ohta Eisuke、Kobori Yasuhiro、Ikeda Hiroshi
    • 雑誌名

      ACS Omega

      巻: 7 ページ: 40364~40373

    • DOI

      10.1021/acsomega.2c05341

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Remarkable Piezofluorochromism of an Organoboron Complex Containing [2.2]Paracyclophane2022

    • 著者名/発表者名
      Irii Shun、Ogaki Takuya、Miyashita Hana、Nobori Kazutaka、Ozawa Yoshiki、Abe Masaaki、Sato Hiroyasu、Ohta Eisuke、Matsui Yasunori、Ikeda Hiroshi
    • 雑誌名

      Tetrahedron Letters

      巻: 101 ページ: 153913~153913

    • DOI

      10.1016/j.tetlet.2022.153913

    • 査読あり
  • [学会発表] Transient Absorption Spectroscopic Analysis of Energy Transfer Process in the Solid-state Upconversion System2023

    • 著者名/発表者名
      Yasunori Matsui, Takumi Takahashi, Masaya Kanoh, Takuya Ogaki, Hiroshi Ikeda
    • 学会等名
      日本化学会第103春季年会(2023)
  • [学会発表] 交差共役系分子内ドナー・アクセプター対を有する赤色発光性 ビシクロオクタジエン誘導体2023

    • 著者名/発表者名
      長岡 朋希・松井 康哲・大垣 拓也・池田 浩
    • 学会等名
      日本化学会第103春季年会(2023)
  • [学会発表] Intramolecular Singlet Fission of Adamantane-linked Tetracene Dyad2022

    • 著者名/発表者名
      Yasunori Matsui, Shuhei Kawaoka, Hiroki Nagashima, Tatsuo Nakagawa, Takuya Ogaki, Eisuke Ohta, Yasuhiro Kobori, Hiroshi Ikeda
    • 学会等名
      25th IUPAC International Conference on Physical Organic Chemistry
    • 国際学会
  • [学会発表] ポリマーゲルにおけるエネルギー捕集と分子内TTAを利用した光アップコンバージョン2022

    • 著者名/発表者名
      松井康哲・高橋拓海・大垣拓也・ 加納雅也・池田 浩
    • 学会等名
      2022年光化学討論会
  • [学会発表] Development of a Cross-Conjugated Singlet Fission Molecule with High Triplet-Excited Energy Level2022

    • 著者名/発表者名
      Tomoki Nagaoka, Yasunori Matsui, Masaaki Fuki, Takuya Ogaki, Eisuke Ohta, Yasuhiro Kobori, Hiroshi Ikeda
    • 学会等名
      2022年光化学討論会
  • [学会発表] 広いS1-T1エネルギーギャップをもつ交差共役シングレットフィッション材料の開発2022

    • 著者名/発表者名
      長岡朋希・松井康哲・婦木正明・大垣拓也・太田英輔・小堀康博・池田 浩
    • 学会等名
      第32回基礎有機化学討論会

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi