研究実績の概要 |
本研究は,カルベン(C(II)L2)と異なる新しい炭素化学種として期待されるカルボン(C(0)L2)と呼ばれる化合物群に着目し,このカルボン炭素をC1源として活用し,種々の中性配位子を有する炭素中心の6核金(I)クラスター([(C)(AuL)6]2+)を合成することを目的とする。 本年度は,5員環カルボンである1,2-フェニルビス(フェニルスルファン)カーボン(0) (PBSC) のジプロトン体1,3-ジフェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d][1,3]ジチオール-1,3-ジイウム (PBSC・2H) を合成し,その構造をX線構造解析を用いて明らかにした。また,PBSC・2Hの反応性を調査する目的で,3核金(I)錯体([O(AuL)3]+)と反応させ,6核金(I)錯体([C(AuPPh3)6]2+)を合成し,C1源の発生試薬としての利用を試みた。PBSC・2Hは,1,2-ジブロモベンゼンを出発原料とし,2段階で合成した。その構造をX線構造解析を用いて明らかにした結果,PBSC・2Hのフェニル基はトランスおよびシス体の構造をとっていることが分かった。5員環のS-C-S結合角は109-111°であり,理想的な5員環の角度に近い値をとっていた。 C1源の発生試薬として利用する目的で,PBSC・2Hと種々の[O(AuL)3]+(L = IMe, IiPr, PPh3)との反応を行った。その結果,対応する炭素中心6核金(I)錯体が,42, 31, 79の収率で得られた。これらの結果は,これまでC1源として用いられていたTMSCHN2の場合と比較したところ,収率が向上していることが分かった。
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