研究実績の概要 |
広大なπ平面を追求することが優れた芳香族分子の開発に相当するというこれまでの側面を改め、本研究では直交して連なったπ平面に沿ってスルースペース相互作用によって共役させることでできる三次元芳香族分子の創製を目的とする。様々な利用法において弊害となる溶解性の低下は、二次元的に大きな構造によって分子同士のスタッキングが誘発されることで起こる。嵩高い置換基を導入して凝集を妨げる方法では分子の複雑化につながるが、π共役系に三次元性を持たせるための新奇な本モチーフであれば、これらの問題点を同時に解決できると考えられた。中でもスピロ芳香族性は、sp3炭素で連結された複数のπ電子系が一定条件を達成することで発現するとされる。 昨年度合成した5,15-シクロアルキルポルホジメテン(トランス体)にスピロ共役が導入できるかを確かめるべく、シクロヘプチル基と、シクロペンチル基の代わりに9-フルオレニル基を有した誘導体の合成を行ったところ、得られた生成物の中に前駆体のスクランブリングが原因と思われるシクロへプチル基と9-フルオレニル基がシス配置になった5,10-ポルホジメテンが見出された。溶液状態で徐々に退色することから不安定であることが示唆させ、かつ同定できない副生成物との分離困難な混合物であったが、迅速に結晶化させた固体を目視で選り分けることによりX線結晶構造解析にも成功した。このシス体生成の再現性を確かめるべく、9-フルオレニル基をもつ方の前駆体のみを使用し反応をシンプルにしたところ、9-フルオレニル基がシス配置された5,10-ポルホジメテン誘導体が得られた。これらの化合物は、その前駆体合成が煩雑で報告例が限られているが近年増えつつあるトリピリンに相当する部分構造を有するため、これらの類縁体合成としても有用である。
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