研究課題/領域番号 |
22K05106
|
研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
庭山 聡美 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (00742420)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 対称化合物 / 非対称化反応 / メカニズム / グリーンケミストリー / 選択的反応 / 実用的反応 / 水溶媒 |
研究実績の概要 |
本研究では我々が以前見出した、対称ジエステルの実用的な高選択的モノ加水分解反応の応用・発展研究を行っている。まず本反応の高選択性のメカニズムの探求を行った。実験によるアプローチとして、本反応の高選択性の鍵となる中間体を検出するために、表面に負の電荷を持つコロイド状粒子の存在を確認するべく動的光散乱実験とゼータ電位測定を開始した。理論計算によるアプローチとしては、対称ジエステルとしてdimethyl maleateを選び、まず真空中で一つめ及び二つめのエステル基が加水分解される際の遷移状態を計算した。その結果、対称 diesterから一つ目のエステル加水分解の遷移状態への反応の活性化エネルギーは half esterから2つ目のエステルの加水分解の遷移状態への活性化エネルギーよりも小さい値を示した。したがって、このエネルギー差によりモノ加水分解反応が起こりやすくなることが推測される。また二つめのエステル基の加水分解の中間体のエネルギーは遷移状態とほとんど変わらず、非常に不安定であった。本結果では後に生成物が枝分かれしてしまうような現象も示唆された。 またメカニズムに基づいて、本来は選択的モノ加水分解反応が難しく、当初発表した条件ではうまくモノ加水分解が進行しなかったシュウ酸の対称ジエステルについても、種々の対称シュウ酸ジエステルのハーフエステルを高収率で得た。 さらにこの反応を利用して、中国の共同研究者と高分子合成に取り組んだ。ノルボルネンやノルボルナジエン骨格を持つアルケンは開環メタセシス重合により高分子を効率的に生成する事が知られているため、これらの骨格を持つ対称ジエステルに対してこの選択的モノ加水分解反応を施して対応するハーフエステルとし、生成したカルボキシル基に種々の置換基を導入した後にGrubbs第3世代触媒を用いた開環メタセシス重合反応により種々の高分子を合成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で出張ができない、物品購入に制限があったなど、さまざまな制約があり、研究は思う様にできない部分はあったが、その様な中でも研究室に在庫のものを利用して成果を出した。結果として論文を2報出版し、学会発表を数種類行い、2種は国際会議での招待講演である。以上を総合的に判断して“概ね順調に進展している“が妥当と考えた。
|
今後の研究の推進方策 |
まずメカニズムに関する研究を続行し、対称ジエステルdimethyl maleateの一つめ及び二つめのエステル基が加水分解される際の遷移状態を、水溶媒を考慮しながら計算し、その結果を真空中での結果と比較する。 また本反応のメカニズムの仮説によれば、置換基の疎水性や親水性の変化が伴う反応であれば、水溶媒中で他の対称化合物の非対称化反応も可能と考えられるため、その様な反応も開発する。 さらに高分子合成を続け、別の種類の高分子を合成する。合成高分子は最終的にはドラッグデリバリーへの応用が目的であるが、共同研究者の研究室でそのドラッグデリバリー能を測定するために,エタノールに可溶な高分子を合成する。また一部の高分子は生命科学連携推進協議会の分子プロファイリング支援活動にてin vitroでの活性評価が可能そうなので、その支援活動を利用してさらなるデータを蓄積し、可能なら構造ー活性相関研究も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も新型コロナ感染症流行が続き、出張は全て非常に困難な状況であったため学会実施はオンラインが主であった。したがって旅費が発生しなかった。またコロナに加えてロシアーウクライナ戦争の影響もあり、種々の物品調達に関しても納品の保証がされない状況であったため、年度中の備品購入も断念した。試薬なども納入時期が不明のものが多かったため、すでに実験室に存在していたものを用いた。全体として、コロナ禍で物品購入や出張は困難であったため、初年度の研究は、共同研究かすでに研究室に購入してあったコンピューターを用いた理論計算などが主流であった。次年度は初年度の残額を有効利用する。例えば対面での学会発表のために積極的に出張したり、質の高い研究員の雇用を行ったり、良質の備品購入や、試薬やガラス器具などの消耗品購入に利用する予定である。
|