研究課題/領域番号 |
22K05113
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阿野 勇介 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (20736813)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 遷移金属触媒 / π配位 / 炭素-ハロゲン結合 / 炭素-ヘテロ原子結合 / 多官能基化 |
研究実績の概要 |
有機ハロゲン化物の炭素基とハロゲン基をアルケンに対して一挙に付加する「アルケンのカルボハロゲン化反応」は、有機合成化学における代表的な合成中間体であるハロゲン化アルキルを100%の原子効率で合成することができる手法である。申請者は、カルボハロゲン化剤としてアルキニルブロミドを用い、ブロモ基とアルキニル基をアルケンの同一炭素上に導入する「1,1-アルキニルブロモ化反応」をすでに開発している。2022年度はハロゲン基としてクロロ基やヨード基の導入に関する位置選択性を精査した。その結果、クロロアルキンを用いた反応では二つのアルケン炭素のそれぞれにクロロ基とアルキニル基が導入される1,2-クロロアルキニル化が進行することがわかった。 また、前述のアルキニルハロゲン化反応の開発の過程で、分子内に求核性官能基を有する基質を用いると環化反応が進行することを見出した。すなわち、求核性官能基としてオルト位にアルキルエステルを有するスチレン類を用いた場合、アルケンの末端炭素上で炭素-炭素および炭素-酸素結合が形成される1,1-オキシアルキニル化が進行し、生理活性物質の基本骨格の一つである3,4-ジヒドロイソクマリンを与えることが明らかになった。本反応は求核性官能基としてアルキルエステルを用いることが鍵であり、エステル由来の脱離基は対応するアルキルブロミドとして回収可能であることを確認した。量子化学計算による反応中間体の解析も実施し、詳細な反応機構についての知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)アルキニルハロゲン化の位置選択性の制御法の開発、(2)π配位性官能基を利用した炭素-ハロゲン結合の切断および形成法の開発、(3)(1)および(2)の手法の炭素-ヘテロ原子結合形成への適用による、多官能性アルキル化合物の直接的合成法の開発を主な目的としている。 今年度は(1)ならびに(3)に関する研究が進展した。(1)の研究については、導入できるハロゲン基の種類が拡大したこと、またその導入位置の選択性に関する詳細な知見が得られた点は当初の計画通りである。さらに(3)に関して、アルケンの1,1-オキシアルキニル化に関する新たな手法の開発に成功した。これは当初計画していたよりも進捗が早く、現在学術論文誌への投稿段階に至っている。一方、(2)に関しては、量子化学計算による予備検討を始めた段階であり、実験的な成果は十分に得られていない。(2)の研究については、当初の計画に従って、次年度以降に集中的に取り組む。なお、本研究の過程で炭素-炭素σ結合に対する炭素-水素結合の分子内付加反応を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)アルキニルハロゲン化の位置選択性の制御法の開発について、基質分子内に金属配位可能な官能基を導入して位置選択性の制御を試みる。(2)π配位性官能基を利用した炭素-ハロゲン結合の切断および形成法の開発についても、分子内配向基を有する芳香族ハロゲン化物を反応剤に用いることで、結合の切断・形成およびβ水素脱離の反応性を制御する。これに加えて、脂肪族ハロゲン化物をカルボハロゲン化剤として用いることを検討する。初期検討として、ハロゲン化ベンジルやハロゲン化アリルのような遷移金属触媒に対する反応性が比較的高い化合物を用いて触媒反応条件を最適化する。以上のアプローチによって多様なカルボハロゲン化の実現を目指す。(3)炭素-ヘテロ原子結合形成への適用については、窒素および硫黄原子の導入を実現するために対応する求核剤の選定を進める。また、本研究の過程で見出した炭素-炭素σ結合の切断を鍵とするカルボハロゲン化反応につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症のために、参加を予定していた国際および国内学会の一部が延期またはオンライン開催となった。そのため、当初計画していた旅費等への予算の使用がなくなった。これらの予算は、2023年度に延期された学会への参加費および旅費等に使用する計画である。
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