研究課題/領域番号 |
22K05119
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小野寺 玄 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (90433698)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ホスフィン-ボラン / 金 / イリジウム / アルキン / 活性メチレン / 付加環化反応 / 炭素-水素結合活性化 |
研究実績の概要 |
本研究では,ルイス酸性のホウ素部位を有するホスフィン化合物であるホスフィン-ボランを各種遷移金属錯体の配位子として用いることでルイス酸点含有錯体を調整し,これらを触媒として用いた場合に効率的に進行する有機合成反応の開発を目的として研究を行っている。2023年度に検討を行った触媒反応に関する研究成果を以下にまとめる。 前年度に引き続き,ホスフィン-ボラン配位子と金触媒を用い,分子内にアルキン部位を有する活性メチレン化合物の分子内付加環化反応について研究を進めた。これまでにα-(4-ペンチニル)マロン酸エステル誘導体を用いると5-exo-digモードでの環化が進行することを明らかにしていた。基質適用範囲を詳細に調べた結果,α-(3-ブチニル)マロン酸エステル誘導体を用いたときには5-endo-digモードでの環化が進行し,シクロペンテン誘導体が得られることが新たに分かった。 金/ホスフィン-ボラン触媒系を,アルキンに対する活性メチレン化合物の分子間付加反応へと展開することを目指し,種々の反応条件下で検討を行った。その結果,低収率ながらフェニルアセチレンに対するアセチルアセトンの付加反応が進行することが分かった。収率の向上を目指してさらなる検討を重ねているところである。 一方,イリジウム錯体とホスフィン-ボラン配位子を用いて,含硫黄置換基を有する芳香環の炭素-水素結合活性化についても検討を行った。ベンジルフェニルスルフィドとヒドロシランとの反応において,ベンジル基上のベンゼン環のオルト位炭素-水素結合がシリル化されることがわかったが,ホウ素部位を持たないホスフィン配位子を用いても同様の反応が進行した。ヒドロシランに換えてジボロンを用いると,同様にベンゼン環状のオルト位炭素-水素結合がホウ素化された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホスフィン-ボラン配位子と金触媒を用いた,α-(4-ペンチニル)マロン酸エステル誘導体の分子内付加環化反応では高収率で対応する生成物が得られている。この反応は5-exo-digモードでの環化が進行したあとに,エキソメチレン部位の二重結合が環内へと異性化することでシクロペンテン誘導体が得られている。この二重結合の異性化には反応系中で生成したプロトンが関与していることを明らかにした。基質適用範囲を調査したところ,炭素鎖の一つ短いα-(3-ブチニル)マロン酸エステル誘導体を用いると付加環化反応が5-endo-digモードで進行し,シクロペンテン誘導体が得られた。さらに適用範囲を詳しく調べた結果,アルキン末端にメチル基やアリール基を導入した場合にも同様の付加環化反応が進行した。これらの結果については論文にまとめて投稿する準備を進めている。 イリジウム触媒とホスフィン-ボラン配位子を用いて,ベンジルフェニルスルフィドのベンジル基上の炭素-水素結合活性化について検討を行った。ヒドロシランとの反応では,ベンジル基上のベンゼン環のオルト位がシリル化された生成物を低収率ながら得ることができたが,ホウ素部位を持たないホスフィン配位子を用いた場合にも同様の結果が得られた。ヒドロシランの代わりにジボロンを用いるとホウ素化反応が進行した。 以上のように,本研究では金およびイリジウムとホスフィン-ボラン配位子とを用いた時に進行する触媒反応について研究を進めている。金/ホスフィン-ボラン触媒系を用いたアルキン部位を持つ活性メチレン化合物の付加環化反応については論文を執筆中である。アルキンに対する活性メチレン化合物の分子間付加環化反応,および炭素-水素結合活性化反応についてはそれぞれさらなる収率の向上や基質適用範囲の確認を進めており,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
金/ホスフィン-ボラン触媒系を用いた活性メチレン化合物のアルキンへの分子間付加反応については,収率の向上を目指し,反応条件の最適化を進める。特に,ホスフィン-ボラン配位子の構造が収率に与える影響を精査する。収率が向上すればアルキンおよび活性メチレン化合物の基質適用範囲を明らかにする。得られた結果は学会等において公表するとともに,論文にまとめて専門学術誌へ投稿する。 ベンジルフェニルスルフィドの芳香環炭素-水素結合活性化反応に関しては,シリル化反応およびホウ素化反応ともに現時点では収率が低いため反応条件の最適化を進める。また,硫黄官能基はホスフィン-ボラン配位子上のホウ素との相互作用が弱いために収率の向上が困難であることも考えられるため,ホウ素とより強く相互作用するような官能基を用いた新規炭素-水素結合活性化にも取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬類の無駄を省いて効率的に使用したことと,実験装置の故障が少なく修理費用が当初の予想よりも低額で済んだことが,次年度使用額が生じた主な理由である。 令和6年度分として請求した助成金と合わせた使用計画を下記に示す。引き続き有機合成用試薬類および実験用消耗品が必要であるため、803,436円を物品費として使用する。学会発表に必要な旅費としては,今年度は国際学会での招待講演が予定されていることと,交通費及び宿泊費の高騰をうけ,500,000円を計上する。その他経費として100,000円を計上し、合計で1,403,436円を使用する計画である。
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