研究課題/領域番号 |
22K05123
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小室 貴士 東北大学, 理学研究科, 講師 (20396419)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 3d金属錯体 / ケイ素配位子 / 多座配位子 / 複核錯体 / N-複素環式カルベン / 1,8-ナフチリジン / 触媒 / ヒドロホウ素化 |
研究実績の概要 |
(1) N-複素環式カルベン(NHC)とシリル配位部位を併せもつSiC型の二座キレート配位子を有する,2種類の新規鉄カルボニル錯体を合成し,それらの触媒作用を調べた.その結果,NHCの窒素上に嵩高い置換基をもつSiC型配位子を有する鉄錯体1の光照射により生じる化学種が,ニトリルの二重ヒドロホウ素化の高活性な触媒として働き,有機窒素化合物の前駆体として有用なビス(ボリル)アミンを高収率で生成することを見出した.従来の鉄触媒よりも少ない触媒量(0.5 mol%)で反応がほぼ定量的に進行することがわかり,錯体1の高い活性を確認することができた.この結果は,当該SiC型配位子が3d金属触媒の支持配位子として有効に働くことを示唆しており,今後様々な3d金属を対象としてシリル-NHC錯体を合成し触媒機能を開発するうえでの,足掛かりとなる成果が得られたといえる. (2) 2つのケイ素配位部位(シリルまたはシリレン部位)を2,7位に導入した1,8-ナフチリジン誘導体を用いた複核錯体の合成を,3d金属の銅について検討した.シリル配位子の前駆体となるビス(ヒドロシリル)ナフチリジンとアリール銅錯体との反応では,目的のシリル銅錯体は得られなかったものの,配位子骨格の脱プロトン化を経てアルキル配位部位をもつ新規の三核銅錯体2が生成することを,NMRスペクトルおよび質量分析に基づき明らかにした.次に,ジアミノナフチリジン誘導体とアリール銅錯体とを混合した後,クロロ基をケイ素上にもつN-複素環式シリレン(NHSi)と反応させたところ,NHSiのクロロ基がアミノ基に置換して生じたビス(シリレン)ナフチリジンを有する二核銅錯体3が生成することを示唆する結果が得られた.今後,錯体2および3の詳細な構造を決定するとともに,それらの複核金属骨格での金属-金属協働作用を活かした触媒機能の開発を目指す予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように,本年度の研究により,シリル-NHCキレート配位子をもつ鉄錯体を合成するとともに,その錯体がニトリルのC≡N三重結合をヒドロホウ素化する高活性な触媒として働くことがわかった.さらに,前例の無いビス(シリレン)-1,8-ナフチリジン誘導体を支持配位子としてもつ二核銅錯体が生成する,新反応を見出した.目的の3d金属錯体の合成や触媒作用に関する新しい知見が得られつつあり,これらの知見を次年度以降の研究で有効に活用できる状況にある.したがって,本研究は,現在おおむね順調に進展していると自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,引き続き3d金属-ケイ素錯体の合成に取り組むだけでなく,これまでの研究で合成した錯体を触媒とした強固結合の活性化反応の開発を目指す.以下の(1)~(3)を,重点的に行う. (1) シリル-NHCキレート配位子をもつ錯体について,鉄以外の3d金属(Mn, Co, Ni, Cuなど)を中心にもつ錯体を合成し,それらの構造や基本的性質(溶液中での動的挙動や反応性)を比較する.さらに,得られた錯体の配位子の置換や引き抜きによって,反応活性な配位不飽和錯体へと誘導する検討も行う. (2) ケイ素-1,8-ナフチリジン多座配位子をもつ複核金属錯体について,前年度合成した銅錯体のX線結晶構造解析により分子構造を決定し,金属間の相互作用を調べるとともに,銅以外の3d金属を対象とした錯体合成についても検討する.合成した複核錯体の有機分子や小分子に対する反応性を調べ,複数の金属が協働して強固な結合(C-HやC≡Nなど)を活性化する化学量論反応を見出す. (3) (1)や(2)により合成した3d金属錯体を触媒として用いて,強固結合を変換する反応(例えば,炭化水素分子のC-Hの重水素化,シリル化,ボリル化など)を開発する.従来触媒と活性や反応の選択性を比較し,開発した錯体触媒の優位性について評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は,コロナウィルス対策による活動制限により,参加した国内学会の一つがオンライン開催となったため,旅費を支出しなかった.この結果,次年度使用額が生じた. (使用計画)次年度に,実験装置や分析機器が不調となった場合に生じる研究の遅れを最小限に抑えるため,その際に必要となる機器類の修理費として,当該使用額を活用する予定である.
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