研究課題
本研究は、代表者らが過去に見出した金属-硫黄クラスターを用いたCO2/COから短鎖炭化水素への還元反応をベースとして、反応点となる金属の数、種類が制御可能な立方体型[M4S4]クラスターを用いてCO2/CO還元の生成物を制御しようとするものである。初年度となる本年は、反応点としてFe、Co、Niを1つ導入した[Mo3S4M]クラスターによる触媒反応を検討した。CO2、COのいずれを基質とした実験においてもFeを選択した場合にメタン(CH4)が基質還元の主生成物として得られることが明らかとなり、一方CoやNiを選択した場合にはプロトン還元による水素の副生が大きく優先された。さらに比較的高い基質還元活性が見られた[Mo3S4Fe]クラスターに対して、Mo上に導入した配位子の立体効果を検討したところ、立体障害が小さくなった場合に基質還元の選択性が大きく向上することを見出した。いずれの場合もCO2/COの還元による主生成物がCH4となっており、C-C結合の形成によるエタンやプロパンの生成はほとんど見られなかった。当初の仮説では、反応点となる金属が1つであってもCOの挿入反応によってC-C結合形成が進行すると考えていたが、実際には単反応点ではC-Cの伸長反応はほぼ進行しない。よって今後の研究では、これらの知見を踏まえ、C2以上の炭化水素を生成物のターゲットとする新たな方策の検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は[Mo3S4M]クラスターの触媒検討を行い、Fe、Co、NiのうちCO2/CO還元反応にはFeが最も適していることを見出した。また代表者らが既に報告した反応は、CO2/COから短鎖炭化水素を生成するものの、還元剤効率が低いという問題があった。これに対して、[Mo3S4M]クラスターの触媒検討とともに、添加するプロトン源や補助配位子と触媒活性の関係についても調査を行ったところ、格段に還元剤効率の高い反応系を見出すことにも成功している。この成果は、特にCO2からCH4への還元反応が、COの生成やプロトン還元よりも優先される点で興味深い。
本年度の触媒検討と反応系の調査によって、CO2/COからCH4を効率よく生成する触媒反応を見出すことができた。そこで今後は、さらに化学量論的な変換反応にも挑戦し、反応中間体の捕捉や反応経路の同定に取り組む。特にかさ高い配位子を[Mo3S4M]クラスターのMo上に導入した場合には反応の進行が遅くなるため、中間体の捕捉には有利に働くと予想している。また生成物の制御を目指して、C-C結合形成を促す要因を洗い出し、エタンやエチレンなど工業的に重要なC2以上の炭化水素を生成する反応条件の探索を行う。反応点となる金属の数がC-C結合形成に関わるという仮説のもと、すでにいくつかのクラスターを合成しており、順次触媒検討を行う予定である。
反応生成物の同定のため、次年度に分析機器の導入を予定している。予算確保のため、本年度の支出は低く押さえられている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
Bulletin of the Chemical Society of Japan
巻: 95 ページ: 1190-1195
10.1246/bcsj.20220143