研究課題/領域番号 |
22K05145
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中島 隆行 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80322676)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 銅 / 多核錯体 / ヒドリドクラスター / 水素 / ギ酸 / 協同効果 |
研究実績の概要 |
銅ヒドリド種は,銅錯体触媒反応の活性種として重要な中間体と認識されているが,錯体として単離し,構造や反応性など分子科学的に研究を行っている例はストライカー試薬Cu6H6(PPh3)6と関連する化合物に限られており,研究未開拓の領域となっている。また,最近では元素戦略の観点から貴金属に代わる水素貯蔵や電極材料の観点からも注目を集めている。当研究室では金属骨格の精密制御に伴う物性・反応開発の観点から直鎖状四座ホスフィン配位子を用いた多核錯体の合成をこれまで展開してきた。最近,これらの配位子が銅ヒドリド錯体の安定化に有効であることを見出し,また支持配位子が錯体の構造や二酸化炭素の還元反応特性に大きな影響を与えることを明らかにしている。そこで,本研究では銅ヒドリドクラスターの構造に与える配位子の影響を調べる目的で2種類の四座ホスフィン配位子dpmpppおよびdpmppmNBnを用いて銅ヒドリドクラスターの合成を検討した。 配位子dpmpppに対し,[Cu6H6(PPh3)6], [Cu(NeCN)4](BF4), NaBH4を作用させると[Cu9H7(dpmppp)3](BF4)3 (1)が得れた。一方,dpmppmNBnを用いた場合には同様な条件下[Cu13H10(dpmppmNBn)3](BF4)3 (2)が生成した。X線構造解析により,錯体1が銅6個からなる三角柱の側面を3つの銅がキャップした構造であるのに対し,錯体2は歪んだ20面体型構造を有することが分かった。錯体1と2のヒドリドの位置はDFT計算による構造最適化の手法により明らかにした。温度可変NMR測定により錯体1でのみ,7個のヒドリドのうち5個のヒドリドに動的な挙動が見られることが分かり,四座ホスフィン配位子の違いが銅ヒドリドクラスター骨格やヒドリドの性質に大きな影響を与えることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
四座ホスフィン配位子dpmpppとdpmppmNBnの違いが銅ヒドリドクラスターの合成に大きな影響を与えることを見出したため。さらに,反応条件の違いも錯体構造に大きな影響を与えることを予備的実験から確かめることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度合成された銅ヒドリドクラスターの反応性を検討するとともに,さらに反応条件を検討することにより銅ヒドリドクラスターのヒドリド位置と反応性に関する構造活性相関についても明らかにする計画である。また,ギ酸の分解反応や,二酸化炭素の水素化反応・ヒドロシリル化反応などの反応を検討し,多核錯体上での特異な反応開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
錯体の合成や反応開発に必要な試薬やガラス器具などが,既に研究室にあった在庫を使用することにより当初の予定より購入する必要がなかったため。 次年度は,ガラス器具や有機試薬の購入,学会参加経費に使用する予定である。
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