研究課題/領域番号 |
22K05153
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
服部 満 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20589858)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 感染症 / バイオマーカー / 発光 / 指示薬 |
研究実績の概要 |
ウイルスや細菌などによる感染を早期に発見するため、また検出方法が確立されていない未知の感染症に対応するため、感染に伴い上昇する様々な体内物質 (バイオマーカー)を検出する生物発光指示薬を開発し、「何かに感染している」兆候を捉える判定法を開発する。この方法を用いて、プレートリーダーのようなハイスループット検査、最終的にはスマートフォンカメラによる検査したい人が自らが行える簡便な体外診断法を確立する。 初年度はバイオマーカーのうちからC-reactive protein (CRP)を選択し、CRPを特異的に検出して発光を呈する生物発光指示薬の設計を行った。実際に同指示薬タンパク質を合成してCRPに対する反応を確認した結果、CRP濃度依存的な発光の上昇が確認された。またこの発光はスマートフォンカメラなどの汎用的機器にて撮影することもできるため、簡便な計測法の確立に向けて有効なツールとなることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.感染のマーカー決定及び結合ドメインの選抜 : 感染に伴う身体の炎症を検出するためのバイオマーカーとしてC-reactive protein (CRP) を選択した。CRPは体液中にて五量体を形成することから、この五量体を認識するような生物発光指示薬を開発する。CRPに結合するタンパク質ドメインはいくつか知られており、そのうち低分子で単量体へ結合するドメインを選択した。 2.生物発光指示薬のデザイン及び作製 : 選択した結合ドメインに対して生物発光タンパク質を融合することで生物発光指示薬を開発する。CRPが単量体の場合は結合しても発光を生じず、五量体を形成した時にのみ分子間で反応して発光が生じる仕組みを考案し、同指示薬タンパク質を発現するプラスミドを作製した。 3.大腸菌による指示薬タンパク質の合成及び精製 : 発現プラスミドを大腸菌へ導入して指示薬タンパク質を発現合成させた。大腸菌を抽出してタンパク質を精製し、in vitroで使用する準備をした。同時にCRPについても大腸菌で合成し精製した。 4.CRP存在下での指示薬の発光検出 : 精製した指示薬に対してCRPを濃度を上げて添加した結果、指示薬からの発光が増加した。この発光はスマートフォンカメラにより撮影できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
1.複数の感染マーカーの選択 : CRP以外にも細胞破壊により増加する物質としてIL-6などのタンパク質を検討する。バイオマーカーとして、それぞれを特異的に検出できる生物発光タンパク質指示薬を開発する。バイオマーカーを複合的に判定する動きは既にあるものの、それぞれの測定方法や感度は異なり、実際の使用には多くの課題がある。複数のバイオマーカーを生物発光を利用して同時に計測することで、感染の疑いを複合的に判定するための検査基盤を整備する。 2.計測法の確立1:プレートリーダーによるハイスループット計測 : 開発した指示薬による感染の判定では、医療機関による多サンプルのハイスループット解析および、個人によるスマートフォンカメラを用いた簡便な検査、の2つを想定している。まず、ハイスループット解析にて広く用いられているプレートリーダーを用いた解析の手順を確立し、実際のサンプルに対してその感度とアクセシビリティを評価し、改良する。 3.計測法の確立2:スマートフォンカメラによる簡便計測 : PCRや抗原抗体検査による感染症の判定は、医療機関へ直接出向くか検体を郵送するなどその実施場所は限られており、判定までには時間がかかる。本格的な検査の前に感染の疑いを自宅等で検査することができれば、医療機関の負担を軽減させるとともに、自身が認知できないまま感染を拡大させてしまう危険を抑えることができる。スマートフォンカメラでの撮影により簡便に検査できる手順を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった試薬及び消耗品について予定した額よりも安い価格で購入することができた。また条件検討のため複数回実験を行う予定であったものの、少ない回数で条件が決定したため購入量が少なくなった。次年度は他のマーカーに対して指示薬開発を行うため、そちらへ使用する予定である。
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