研究課題/領域番号 |
22K05178
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 教授 (80373033)
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研究分担者 |
茶山 健二 甲南大学, 理工学部, 教授 (10188493)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ホウ素 / 温度感応性高分子 / 分離技術 / 回収技術 / 検出技術 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、水溶性ホウ素の化学吸着部位を温度感応性高分子に導入した『親水・疎水制御型ハイブリッド機能高分子』を開発し、温度昇降とろ過により水溶性ホウ素を効率的に分離回収する環境調和型分離システムを構築・提案することを主な目的とした3年間の研究課題である。具体的には、温度感応性部位となるN-イソプロピルアクリルアミド(pNIPAAm)、水溶性ホウ素の化学吸着部位となるN-メチル-D-グルカミン(NMDG)、および、NMDGの導入に伴う高分子の過度な親水化を抑制するための疎水性部位を導入したハイブリッド機能高分子の合成検討を行っている。 今年度は、ハイブリッド機能高分子のNMDG部位による親水性を顕著に抑える疎水性部位であるスチレンの導入量を変化させ、より多くのNMDG部位をもつ温度感応性高分子の合成を検討した。しかし、スチレン導入量のわずかな違いにより、高分子の下限臨界共溶温度(LCST)が大きくシフトし、再現性に乏しいことがわかった。 そこで、各機能部位として組み込むモノマーの合成を再検討した結果、NIPAAmと同じアクリル基を有するNMDGモノマーとアニリンモノマーを両方を高収率で得る方法を見出した。これらのアクリルモノマーとNIPAAmの仕込み比を変化させた共重合体を合成したところ、高分子中にホウ素捕集のためのNMDG部位を30%程度導入しても、LCSTを50℃程度に制御できるハイブリッド機能高分子を再現性良く合成することができた。なお、アクリルモノマーはいずれもNIPAAmと同様に空気中で安定な固体であるため高分子合成における秤量等が簡単であり、様々な仕込み比で様々なLCSTをもつ高分子を合成できる点は特筆に値する。 以上のように、当初の狙い通りのハイブリッド機能高分子を合成できたため、最終年度である次年度には水溶性ホウ素の吸脱着実験を集中的に行う状況が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の分子設計として、温度感応性部位(NIPAAm)に親水性のホウ素化学吸着部位(NMDG)を導入すると、水への溶解度が上昇する、すなわちLCSTが上昇するが、これを疎水性部位を導入することで抑制すれば、室温付近では水溶性、60℃程度以上で不溶性となるハイブリッド機能高分子となると考えていた。今年度は、最終的に狙い通りのハイブリッド機能高分子を、各機能性モノマーを特定の割合で共重合させることにより再現性良く合成できた点は大いに評価できると考える。また、今回見出したモノマー合成法では、高純度の目的物が高収率で得られており、予想を超える成果である。一方で、水溶性ホウ素の捕集に伴う高分子のLCSTへの影響や、ホウ素の化学吸着能に関しては最終年度に持ち越しとなり、やや当初の計画より遅れている。以上を総合的に評価し「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたLCSTが50℃程度のハイブリッド機能高分子を用いて、水溶性ホウ素(ホウ酸)の化学吸着試験や脱着試験を行う。捕集実験は、室温付近でホウ酸溶液に高分子を溶解して均一溶液中で化学吸着後、LCST以上に昇温して熱時ろ過により分離し、高分子へのホウ素捕集率を求める。脱着実験は、化学吸着後の高分子を酸性水溶液に溶解してホウ酸として解離させ、再びLCST以上に昇温することにより、ホウ素の脱着挙動を調べる。なお、ホウ素の化学吸脱着過程は均一溶液中であるため、高分子によるホウ素の化学吸着反応、すなわち高分子中のNMDG部位とホウ酸との錯体形成反応の安定度定数や化学吸着反応速度を測定し、固相吸着の場合と比較することにより、温度感応性高分子の有用性を評価する。 なお、ホウ酸がNMDG部位と錯体形成反応すると、キレートホウ酸錯陰イオンとなり負電荷をもつため、水溶性が向上してLCSTが上昇する可能性がある。このようなホウ素の化学吸着に伴うLCSTの変化を調べることにより、最も簡単に水溶性ホウ素を分離できるLCSTを見出す。このLCSTの制御は、今年度見出した方法である疎水性アニリン部位の導入量の変化を利用する。 以上の検討を集中的に行い、ハイブリッド機能高分子を用いた温度昇降による水溶性ホウ素の分離法の評価および最適条件の確立を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
近年の国内外の物品調達の遅れにより前年度購入できなかった実験器具や実験装置を購入できた一方で、当初の分子設計を変更したことにより、当初の試薬購入費用は結果として抑えられた。また、今年度終盤に高分子の下限臨界共溶温度(LCST)を測定するための分光光度計用温度制御ユニットが故障、修理不能となり、所属機関の経常経費のみでは対応不可能であることがわかった。そこで今年度の予算を一部繰越し、次年度は、故障した装置の更新費用、ならびに、合成法を確立した高分子の大量合成のための試薬購入費用に充てることとした。
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