研究課題/領域番号 |
22K05222
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
三田 文雄 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (70262318)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 配位子間相互作用 / 金属錯体 / 共役高分子 / 高次構造 / 触媒 / 光電気特性 / 立体配座 / 集積構造 |
研究実績の概要 |
生体高分子を越える高度な機能を発現する高分子金属錯体を創成できれば,永続可能な循環型社会の実現に近づける。本研究の目的は,ヘテロ原子含有置換基を配位子に導入した共役高分子金属錯体の合成,水素結合とπ共役の相乗効果による立体配座の安定化,金属錯体部位間相互作用の制御による高次構造の構築,触媒・光電気特性の発現である。構造の制御された含金属共役高分子は,立体選択的水素化・ヒドロシリル化触媒,発光波長と強度を配位子の高次構造と相互作用で制御可能なフォト・エレクトロルミネッセンス材料,あるいは芳香族系物質との分子間相互作用に基づく発光強度変化を活用する爆発物検知材料など,産業上への応用が期待できる。 白金は高価な貴金属であるが,窒素・硫黄酸化物の分解,オレフィンの水素化,ヒドロシリル化の触媒活性を示す産業上不可欠の金属である。報告者は主鎖に白金錯体部位を有するフェニレンエチニレン系高分子の会合体形成と蛍光発光,不斉折り畳み構造・会合体の構築,配位子による主鎖共役長制御,配位子交換による高次構造制御などについて報告してきた。これらの研究を通し,金属錯体部位の立体配座と相互作用の制御を念頭に置いたモノマーの分子設計により,二次構造・凝集構造の制御された含金属共役高分子の合成と,触媒機能・光電気機能の顕著な向上が可能になると考えた。本研究は,これまで積極的には研究されていなかった,配位子の立体配座,配位子間相互作用の制御により,永続可能な循環型社会の構築につながる機能性高分子材料の創成を目指す点で,学術的のみならず,工学的に意義深いと考えられる。 2022年度は,[1] 新規配位子の設計と立体配座の制御,[2] 遷移金属錯体部位を主鎖・側鎖に有する共役高分子の合成と架橋,[3] 触媒特性の評価 [4] 光電気特性の評価を実施した。具体的な研究成果は,現在までの進捗状況に記載した通りである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1] 新規配位子の設計と立体配座の制御:L-バリン由来の光学活性二座リン配位子と,ジクロロ白金錯体との脱塩酸カップリング重合により,白金中心のシス,トランスが制御された高分子白金錯体の合成に成功し,この高分子が極めて大きな円偏光二色性を示すことを見出した。密度汎関数法計算による立体配座解析により,この現象は金属錯体部位のキラルな固定化に基づくことを確認した。 [2] 遷移金属錯体部位を主鎖・側鎖に有する共役高分子の合成と架橋:ホウ素で保護したリン配位子を有するアセチレンモノマーをトリフェニルビニル錯体を配位子に有するロジウム錯体触媒で重合させ,得られたポリマーの脱保護により,リン配位子を置換したポリアセチレンを合成し,当該ポリマーとジクロロ白金錯体との配位子交換による架橋に成功した。さらに,この架橋高分子にトリフェニルフォスフィンを添加することで,解架橋が定量的に進行することを確認し,架橋高分子材料のリサイクル使用の可能性を明らかにした。 [3] 触媒特性の評価:上記で得られた架橋高分子金属錯体が1-ドデセンとジエトキシメチルシランとのヒドロシリル化反応の触媒作用を示し,良好な収率で対応するシリル付加物を与えることを確認した。 [4] 光電気特性の評価:Grubbs第3世代ルテニウム錯体を触媒に用いてノルボルネン誘導体を開環メタセシス重合させ,生長末端での交差メタセシス反応ならびにナフタレンイミド構造を有する白金エチニル錯体との配位子交換により,末端に白金錯体を有するポリノルボルネンの合成に成功した。このポリマーは,空気中で緑色の蛍光を,窒素雰囲気下で赤色のりん光を発すること,りん光寿命は対応する低分子金属錯体よりも10倍程度長いことを見出した。さらに,ジフェニルアントラセンを発光剤に用いることで,高い量子収率(32%)でフォトンアップコンバージョン特性を示すことを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
[1] 新規配位子の設計と立体配座の制御:水素結合・π相互作用・ファンデルワールス相互作用による立体配座の固定が可能なオリゴペプチド鎖を有する各種配位子を合成する。4-アミノ安息香酸などの非天然型の剛直な構造を有するアミノカルボン酸をスペーサーとして適宜導入し,分子設計の幅を広げる。 [2] 遷移金属錯体部位を主鎖・側鎖に有する共役高分子の合成と架橋:上記で合成したオリゴペプチド鎖含有配位子を活用して,主鎖に白金錯体部位を有する高分子を合成する。さらに,オリゴペプチド鎖を有する配位子をもつ側鎖型共役高分子錯体を合成する。モデル化合物の単結晶X線構造解析,紫外可視吸収・円偏光二色性スペクトル,透過型電子顕微鏡・原子間力顕微鏡・動的光散乱,DFT計算・MDシミュレーションにより高次構造・会合構造を検討し,分子設計にフィードバックする。 [3] 触媒特性の評価:得られる含金属高分子を触媒に用いて,オレフィンの水素化・ヒドロシリル化等の触媒としての特性を評価する。当該高分子は光学活性を有しているので,反応後不斉点を生じる基質を用い,不斉誘起能を評価する。高分子触媒においては,主鎖の立体配座の制御により,金属錯体部位の空間配置を制御可能である。 [4] 光電気特性の評価:配位子の立体配座と相互作用に基づく共役高分子の立体配座の制御を活用した光電気特性の制御を目指し,蛍光・りん光寿命測定,エレクトロルミネッセンス特性の評価を実施する。実験結果の理論的解釈を進めるため,DFT計算を行い,立体配座と分子軌道のエネルギー準位・遷移モーメントの方向と大きさおよび軌道の空間配置,分子軌道の重なりを明らかにし,紫外可視吸収,蛍光・りん光発光特性との相関を解明する。ナノ秒オーダーのMDシミュレーションも実施し,分子軌道と構造の静的・動的な状態を正確に把握し,実験結果の分子設計へのフィードバックに活用する。
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