研究課題/領域番号 |
22K05231
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
亀山 敦 神奈川大学, 工学部, 教授 (80231265)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 環拡大重合 / アシルトランスファー重合 / 光環拡大重合 / 芳香族複素環 / チイラン化合物 / スチレン / 二重様式 |
研究実績の概要 |
本研究は、芳香族複素環類である3H-ベンゾチアゾール-2-オン(BT)、3H-ベンゾチアゾール-2-チオン(BTT)のC(=O)-S結合やC(=S)-S結合がイオン的反応性、また光化学的な反応性を有することに着目し、これらの化合物を環状開始剤として用いた二重様式の環拡大重合を創出する革新的な研究である。 これまでの研究において、BT 、およびBTTを環状開始剤としたチイラン化合物のアシルトランスファー(AT)環拡大重合により環状ポリスルフィド類が得られることを明らかにしている。また、得られた環状ポリスルフィド分子内のC(=O)-S結合、およびC(=S)-S結合が(AT)環拡大重合において十分な反応性を有し、チイラン化合物の後重合が進行することが明らかになっている。次に、BTTとモノマーであるスチレン、あるいはメタクリル酸メチルの溶液に365nmLED光を照射した結果、それぞれ対応する環状ポリマーが生成した。これらの光重合において、照射時間とともに用いたモノマーの転化率が増加すること、また生成する環状ポリマーの分子量も増大する傾向が判明している。これまでの研究成果から、分子内にC(=O)-S結合、あるいはC(=S)-S結合を有する芳香族複素環類は、チイラン化合物をモノマーとする環拡大重合、およびスチレンをモノマーとする光化学的環拡大重合(光環拡大重合)の環状開始剤として機能することを初めて明らかにした。 これまで報告されている環拡大重合においては、それぞれのモノマーの反応様式に適した環状開始剤を設計、合成する必要があったが、本研究で開発した新規環拡大重合は市販品であるBT やBTTを環状開始剤として用いることが大きな特徴であり、これらの重合反応は、環状ポリマーの非常に有用な合成法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、芳香族5員環構造は安定構造であるが、適切に条件を選択すれば3H-ベンゾチアゾール-2-オン(BT)、および3H-ベンゾチアゾール-2-チオン(BTT)分子内のC(=O)-S結合、およびC(=S)-S結合は、チイラン化合物の環拡大重合においてアニオン的な開環反応を基盤とするチイラン化合物の連続的な挿入でアシルトランスファー(AT)重合が進行することを明らかにしている。今年度の研究では、BTTを環状開始剤として用いたスチレン(St)、またはメタクリル酸メチル(MMA)をモノマーとする光環拡大重合について検討し、紫外線LED光照射によりBTTのC(=S)-S結合にSt、またはMMAが連続的に挿入して対応する環状ポリマーが生成することを明らかにした。これらの結果より、BTTなどの芳香族複素環類は、二重様式の環拡大重合の環状開始剤として機能することが明らかになった。また、光環拡大重合において生成した環状ポリマーの分子内のC(=S)-S結合から光化学的にラジカル種が生成することにより、スチレンの連鎖的な重合が進行することを支持する知見が得られている。これまでの基礎的な知見から、上述の芳香族複素環類を環状開始剤として用いたチイラン化合物のAT環拡大重合、およびスチレンをモノマーとする光環拡大重合の反応機構について妥当な考察を行っている。 今年度の研究の結果、AT環拡大重合から光環拡大重合へ重合様式を変換することが十分可能であり、今後の研究を推進するための成果が十分に得られている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、芳香族複素環類であるBTTはチイラン化合物のアシルトランスファー(AT)環拡大重合、およびスチレン(St)、またはメタクリル酸メチル(MMA)をモノマーとする光環拡大重合において、二重様式の環拡大重合の環状開始剤として有用であることが明らかになった。今年度は、芳香族複素環類を環状開始剤として用いた光環拡大重合の有用性を明らかにすることを目的とする。種々置換基を有する3H-ベンゾチアゾール-2-オン誘導体、および3H-ベンゾチアゾール-2-チオン誘導体を環状開始剤として用いたSt、またはMMAをモノマーとする光環拡大重合について検討し、芳香族複素環類の化学構造と光環拡大重合の反応性の相関を明らかにする。St、MMA以外のラジカル重合性のビニルモノマーとして、酢酸ビニル、アクリル酸アミド誘導体、N-ビニルピロリドンなどを用いて光環拡大重合について検討し、本研究で見出した新規光環拡大重合の一般性を明らかにする。 新規な光重合の基礎的知見として重要な反応機構についても基礎的な知見を得る。具体的には、光源としてLED光照射装置を用いた本重合反応の波長依存性を明らかにする。 また、増感剤の効果を明らかにする。また、種々のビニルモノマーの転化率と生成ポリマーの分子量の相関、用いた環状開始剤とビニルモノマーの仕込モル比と生成ポリマーの平均分子量の相関などを詳細に検討し、これらの光環拡大重合における反応の特性を明らかにする。さらに、適当なラジカル捕捉剤を添加した重合の反応挙動、および生成ポリマーの構造解析を詳細に行い、本光環拡大重合の推定反応機構について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の前半(本学の前学期)は、本学の新型コロナ感染症の対応の基本方針に基づいて、研究室配属学生は分散登校形式で研究活動を行った。一方、本科研費の申請内容は、従来通りに研究室学生の研究活動を実施することを前提にしたものである。このような事情から、申請時の研究計画通りの実験が十分にはできなかった部分があり、次年度使用額が生じた。 上述の理由で生じた次年度使用額は、翌年度の実験に必要な物品費(薬品、ガラス器具など)の購入のために使用する予定である。一言申し添えると、最近の物価高騰に伴い、研究で使用する物品、具体的には薬品、ガラス器具なども価格が高騰し続けている。特に、パイレックスガラス製反応管などはその価格が約1.6倍に高騰している。このようなことも考慮すると、翌年度の研究計画を十分実施するためには当初の予算計画では不足することも予想される。これらの状況に対応するように予算を有効に使用して翌年度に計画した研究を推進していく予定である。
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