研究課題/領域番号 |
22K05238
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
荒木 潤 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10467201)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | キチンナノウィスカー / 表面アミノ基 / TNBS / o-フタルアルデヒド / ニンヒドリン / Acid Orange 7 / Reactive Red4 / 可視光吸光光度計 |
研究実績の概要 |
3種のラベル化試薬(TNBS-Na、o-フタルアルデヒド、ニンヒドリン)および2種のアニオン性色素(Acid Orange 7、Reactive Red 4)を用いてキチンナノウィスカー(ChNWs)表面のアミノ基の定量を行うことができるか検討した。ラベル化試薬はアミノ基に適切な条件で1:1の化学量論比で結合し、アニオン性色素も(カチオン性である)ChNWs表面アミノ基に1:1の化学量論比でイオン性吸着することが知られているので、これらの試薬を過剰に添加したのちに残った過剰量を吸光光度計で定量し、差し引くことによってアミノ基量を求めた(ニンヒドリンの場合は生成したRuhemann紫の生成量をアミノ基量とした)。それぞれの試薬で測定した値を、伝導度滴定により求めたアミノ基量と比較したところ、定量的に一致したのはAcid Orange 7をpH = 3で用いた時のみであり、他の試薬・条件ではいずれもアミノ基は著しく過小評価された。アニオン性色素その吸着量の低下は、色素およびChNWsの表面アミノ基の酸解離定数(pKa)から乖離状態を考慮することにより説明が可能であった。しかしながら3種のラベル化試薬はいずれも固体表面のアミノ基定量に用いられた実績のある試薬であるにもかかわらず、同じ条件においてChNWsのアミノ基と結合した量は全アミノ基に対して30%程度であった。 本年度の成果は、ChNWsの表面アミノ基を定量するのに好適な試薬及び条件を見出したことにとどまらず、本申請の当初の予測通り、ChNWs表面のアミノ基が他の固体試料表面に存在する一般的な脂肪族アミノ基と比べて著しく低い反応性を有していることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果は、ChNWsの表面アミノ基を定量するのに好適な試薬及び条件を見出したことにとどまらず、本申請の当初の予測通り、ChNWs表面のアミノ基が他の固体試料表面に存在する一般的な脂肪族アミノ基と比べて著しく低い反応性を有していることを示唆した。またその程度を正確に定量し、アミノ基の反応率がもちいる試薬および条件によって大きく異なることを示す世界でも他に類を見ない結果であり、学術的にも興味が持たれる他、ChNWs表面を修飾して機能性を付与したり分散安定性を高めたりする材料化学的な応用研究の知見として極めて重要な成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、他の異なる反応メカニズム(水系における保護イソシアネートの付加反応、ならびに縮合剤を用いたゲストカルボン酸分子のアミド形成反応)に基づいて種々の異なるゲスト分子(保護イソシアネートおよび低分子カルボン酸)を表面アミノ基に結合する反応を試み、さまざまな化学量論比・温度・時間のもとで結合量にどのような差が出るのかを定量し、ChNWs表面アミノ基の反応性を評価する。 また、キチンのアミノ基は担当の2位の炭素に結合しており、(セルロース誘導体で指摘されている)2位の官能基の低い反応性が原因である可能性もある。このため、2位にアミノ基を持つ可溶性多糖であるキトサン、ならびにそのキトサンから出発して6位をアミノ化した6-アミノキトサンを合成し、これまで試してきた試薬を反応させて位置選択性をNMRで測定することにより、2位の反応性が確かに低いのかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度内の使用を計画的に行っていたが、極めて少額の残余額が生じたため、次年度に繰り越して引き続き使用する予定である。
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