研究課題/領域番号 |
22K05239
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
吉水 広明 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10240350)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | NMR / 気体収着特性 / 気体拡散特性 |
研究実績の概要 |
令和4年度に進めた研究の実績は大要以下の3点である。 1.ゴム材料(ブタジエンゴムとアクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム)を対象に二酸化炭素共存下における材料の分子運動性の変化ついて,核磁気共鳴(NMR)現象を通じて評価される着目核のNMR緩和時間の温度依存測定を行って検討した。ゴム材料の水素原子核(プロトン)のNMR緩和時間が二酸化炭素の収着によって大きく変化するには,分子運動性の範囲が限られる傾向にあることや,ゴム材料の成分組成や二酸化炭素収着量の影響を受けることなどを確認できた。 2.ポリスチレンに収着させたメタンの系中における自己拡散係数を磁場勾配パルス(PFG) NMR法で計測する条件を調べた。メタンのプロトンを対象とした高感度な1H PFG法よりも,13C核を対象とした低感度な13C PFG法の方が良好な結果を得られることがわかった。また,ポリスチレン中のメタンの拡散挙動は,物質の拡散現象を説明する物理化学現象の基本原理におおむね従っていることが,自己拡散係数の温度依存データの解析からわかった。 3.比較的ガスバリア性の高いポリエチレンテレフタラート(PET)を対象に,キセノンを収着させてその129Xe NMRスペクトルの観測を試みた。低圧力下で収着量が少ない条件では系中のキセノンの低い拡散性が原因でピーク線幅の広がりが激しくスペクトルが得られないこと,圧力を上げてキセノン収着量を増大させたり測定温度を上昇させたりすると比較的良好なスペクトルが得られること,などがわかった。 以上の研究成果の一部は2022年12月に開催された第60回高分子と水に関する討論会で発表した。また,2023年6月開催予定の繊維学会年次大会で発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では,(1) フィルム状検体試料の出し入れ操作が容易で耐圧性が保証される特殊試料管の試作や,(2) 混合気体を用いた実験の試行,を進める予定であった。(1) については,特殊試料管に適した素材の選定や試作を依頼する業者の選定に想定以上の時間を要してしまったことに加え,依頼先業者の試作に取りかかれる時期が業務過多のため今年度になるまで始められない,という不測の事態となったため,やむなく研究計画の先送り変更をした次第である。(2) についても,キセノンなどの国内への供給が大幅に減る社会情勢などの影響を受け,実験準備が進め難い事態であることから変更を余儀なくされたものである。
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今後の研究の推進方策 |
先ず,令和4年度に計画していた研究の遅れに対する対処について現状を説明する。特殊試料管の試作については依頼業者と打ち合わせを行い図面のやり取りをして詳細を詰めているところである。今秋には一応の完成予定であり,精力的な測定をしてばん回を図る予定である。試作品完成までは市販品の耐圧試料管でできる範囲の測定を実行する。キセノンガスの調達の目処も立ったので,混合ガスを一時プールするミニボンベの製作を鋭意行っているところである。 したがって,令和5年度には試作した特殊試料管を用いて,(ア) 定量評価の精度向上に必要な実験手法の確立を目指す,(イ) 拡散係数の収着量依存を調べ,収着と拡散特性の相関を検討して材料の特徴を明らかにする。(ウ) 拡散係数の温度依存を調べ,材料の温度特性との相関を明らかにする。(エ) 拡散の評価方向を指定できるPFG法の利点を生かし配向試料の拡散異方性を明らかにする。以上の4点に注力する。 また,二酸化炭素/炭化水素ガス及びXeを1成分とする混合気体を用いて,(カ) 各気体の収着量と拡散係数を求め,多段階収着や実用的な分離特性などを明らかにする。(キ) 単一気体での結果と比較し,材料の構造特性等を変化させている気体種を明らかにする。(ク) 129Xe NMR法の利点を生かし,共存気体による材料の凝集構造変化を明らかにする。以上の3点も精力的に推し進める。 最終年度の研究に向けて,(サ) 2成分からなる貼り合せ膜材の調製計画を練る。(シ) いくつかのポリマーブレンド材の調製計画を練る。(ス) ポリマーブレンドとは異なる種々の複合材の調製計画を練る。以上の3点を行い,必要な材料等の調達を精力的に推し進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では,(1) 特殊耐圧NMR試料管(特注品:初期設計費用等を含む) として80万円を計上していたが,これの執行が年度内に行えなかったことが,次年度使用額が生じた主な理由である。また,特殊試料管の仕様に付随して必要な配管パーツ類の購入の多くを見送ったことも理由としてあげられる。 現在,特殊試料管の試作を業者へ依頼しているところで,今年度中に予算執行は完遂する見通しである。ただし,今般の社会情勢を反映し特試料管の試作にかかる経費は80万円を上回る予測で,生じた次年度使用額がおおむねこれで消費される公算である。 なお,令和4年度に設備備品費として計上していた真空ポンプは,これが購入できなくても研究計画に支障のない環境が維持できている。
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