研究課題/領域番号 |
22K05244
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
水谷 義 同志社大学, 理工学部, 教授 (40229696)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 複合材料 / カーボンニュートラル / 水 / 靭性 / ヒドロキシアパタイト / セルロース / アシル化 |
研究実績の概要 |
高分子-リン酸カルシウム複合体において、高分子の疎水性をいろいろと変えて、水の吸収量や複合体の力学特性の変化を見るために、高分子として表面にカルボキシ基をもつセルロースナノファイバーを用い、共沈殿法によってヒドロキシアパタイトと複合化した。複合体は、120℃、300 MPaの条件で一軸加圧成型を行って成形体を得た。この複合体の成形体は、高分子とヒドロキシアパタイト表面が両方とも親水的であり、多くの水を吸収するが、アシル化反応を行ってから成型すると、成形体の水の吸収量がコントロールできることを見出した。アシル化として、アセチル化、ヘキサノイル化、オクタノイル化、ラウロイル化、ベンゾイル化を行ったが、アセチル化、ベンゾイル化した複合体以外は、水の吸収量を20%以下に抑えることができた。成形体を1日、水に浸漬したあとの力学的性質を三点曲げ試験で評価すると、ヘキサノイル体、オクタノイル体においては、水に浸漬する前の30%程度の曲げ強度を保持しており、また、水に浸漬することによって破断歪が大きくなり、水によって柔軟性が付与されていることがわかった。生体の骨は、約10%の水を含んでおり、水によって靭性が向上することがわかっているが、今回の方法で、骨に近い性質をもつ複合体を合成することができた。セルロースは、カーボンニュートラルであり、また、アシル化も植物由来の試薬を使うことができるので、環境にやさしい複合材料として、実際に社会実装できるように、さらに、検討を加えていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分子とリン酸カルシウムの複合体を合成するには、用いる高分子は水溶性であり、カルボキシ基などのアニオン性官能基をもつことによって、リン酸カルシウム表面に結合でい、有機-無機界面を安定化できるので望ましい。一方、親水性高分子でカルボキシ基をもつものは、複合体にした後、水を多く吸収するので、複合体の力学的な強度が失われてしまうことが多く見られる。水が存在するような条件で使用する機械材料としては、耐水性を高めるために、疎水基を導入することが必要であるが、疎水基の導入のタイミングとして、1)複合化前、2)複合化後、3)成形後が考えられる。今回は、複合化後の疎水基導入について比較的うまく研究が進行したので、その成果を報告している。当初の計画では、複合化前に、アセチル化を行うことを予定していたが、その方法では、複合化のときに、高分子を溶解させるのに有機溶媒を使用することが必要であり、この検討は、優先順位としては後で検討したいと考えている。複合化後の疎水基導入では、いろいろな疎水基を用いて比較検討ができるので、研究の発展性からは、優れた方法であると考えている。また、疎水基の種類によって耐水性が変化するのみならず、力学的な性質もかなり変化することが明らかになっている。有機高分子の力学特性が、複合体の力学特性に大きな影響を与えており、用途に応じていろいろな力学特性をもった複合体を造る可能性が示されたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
複合化後に疎水基を導入して耐水性と靭性に優れた複合材料を開発するという方針を中心に研究を進めたい。疎水基としてアシル基を検討してきたが、セルロースナノファイバーの表面のカルボキシ基の対イオンを、アルキルアンモニウムイオンのような疎水性カチオンにイオン交換することによって、複合体の疎水化ができると期待されるので、いろいろな疎水性カチオンとイオン交換した複合体を合成し、力学特性や耐水性がどのように変化するかを検討していきたい。また、複合化前の疎水化についても、検討を進めて、どちらの方法が優れているのかを比較検討して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
複合体の粉末を一軸加圧成形のための炭化タングステン製の金型の作成を、研究の進行に応じて、最適なサイズのものを作成するために次年度に行うため。
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