研究実績の概要 |
有機ELディスプレイに応用できる発光材料として、熱活性型遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence, TADF)材料が注目されてきた。中でも、多重共鳴(Multiple Resonance, MR)構造を持つ材料が有望視されている。MR-TADF材料は、発光スペクトルを狭線化できることから、実用上、極めて重要であり、発光メカニズムの解明が求められてきた。
本年度は、量子化学計算によるMR-TADFメカニズムの理論的解明に取り組んだ。多電子励起を考慮できるEOM-CCSD法を用いて、代表的なMR-TADF材料であるDABNA-1に対して、項間交差(Intersystem Crossing, ISC)ならびに逆項間交差(Reverse ISC, RISC)の速度定数、蛍光およびTADF寿命、発光量子収率(Photoluminescence Quantum Yield, PLQY)、さらにはPLQYにおける蛍光・遅延蛍光成分の寄与を計算したところ、実測値を定量的に再現することに成功した。ここまで数多くの実測値を再現した理論研究は、本研究が初めてである。さらに、計算した速度定数に基づいて発光過程を精査することにより、DABNA-1のTADFは、高励起三重項状態を経由して発現することを明らかにした。本研究の成果により、MR-TADF材料のさらなる高性能化と実用化への加速が期待される。
本研究はCommunications Chemistry誌に掲載され(K. Shizu & H. Kaji, Commun. Chem. 2022, 5, 53.: https://www.nature.com/articles/s42004-022-00668-6)、同誌が選ぶ five year anniversary Collectionにおいて、最もダウンロード数ならびに引用件数の多い論文として選出されている(https://www.nature.com/collections/gejbjihfge)。
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