研究課題/領域番号 |
22K05259
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
金井 要 東京理科大学, 理工学部物理学科, 教授 (10345845)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | ポリヘプタジンイミド / 暗触媒活性 / フォトクロミズム |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績の一つ目として、PHIの暗触媒活性と密接な関係があると予想されるフォトクロミズムについて詳細に調べた。具体的には、カリウムイオンを構造中に含むK-PHI中のカリウムイオン含有量を調整した試料を作製し、その構造や電子構造、光学特性などを調べた。カリウムイオン含有量の調整は、K-PHIを酸処理することで、カリウムイオンを除去することで行なった。その結果、K-PHI中のカリウムイオンの含有量は、その光学特性に大きな影響を与えることが分かった。例えば、カリウムイオンの含有量が減少することに伴って、吸収端波長は短波長にシフトする。また、試料への光照射前後の吸光度の測定からは、フォトクロミズムによって生じる色変化の持続時間も、カリウムイオンの含有量に強く依存することが分かった。これらの事実は、K-PHIの電子構造が、カリウムイオンの含有量によって大きく変化することを示している。実際に、密度汎関数法によるエネルギーバンド計算によって、K-PHI中のカリウムイオンの含有量が減少することで、エネルギーギャップが狭小化することも確認することができた。これらの成果は、PHIのフォトクロミズムのメカニズムに迫る意義がある。特に、PHIのフォトクロミズムにおいて、構造中に含まれるアルカリ金属イオンの役割について詳細な知見を得ることができた。 2022年度の研究実績の二つ目として、絶縁性の高分子材料(PMMA)を用いてK-PHIの分散系の作製に成功した。これは、完全に固体の試料であり、光照射によってK-PHI由来のフォトクロミズムを示すことも確認することができた。また、色変化した試料は、電気伝導度が上昇することを見出した。この電気伝導の上昇は、光照射によって、K-PHI中で生じる遊離したカリウムイオンによるイオン伝導によるものであることも確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、2報の論文発表を行うことができた。そのうち1報はPHIのフォトクロミズムのメカニズムに関する研究成果であり、もう1報は、新しいK-PHIの高分子分散系の開発に関わる研究成果である。本研究課題では、PHIの示す暗触媒活性と、フォトクロミズムの関係について注目している。1報目の論文の研究成果は、この課題に関するものであり、研究計画において、1、2年目に行う予定であった。そのため、研究計画に沿って研究が進捗していると言える。2報目の論文での研究成果では、SEM-EDXを用いて、K-PHI表面における元素分析を行うことで、光照射に伴うフォトクロミズムによって、K-PHI中のカリウムイオンが遊離する様子を直接観測することに成功した。この課題は、研究計画において、1、2年目に行う課題であり、研究計画に沿って研究が進捗していると言える。 以上のことから、これまでのところ、研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、PHIの電荷蓄積状態について詳細に調べる。PHIに光照射を行うと、フォトクロミズムが生じると同時に、フォトキャリアが生じ、構造中に蓄積されると考えられている。この蓄積された電荷が、暗触媒活性を引き起こしている可能性があるため、PHIの電荷蓄積状態を調べることは重要な課題である。この電荷蓄積状態を調べるために、今後は、電子スピン共鳴(ESR)と光電流測定を用いて研究を推進してゆく予定である。ESRでは、電荷蓄積の有無や程度を、光照射後の時間依存性を含めて測定することができる。また、光電流測定では、実際の電荷蓄積量の見積もりを行うことができると考えている。これらの実験によってPHIの電荷蓄積状態についての基礎的な知見を得ることで、暗触媒活性のメカニズムに迫る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費(消耗品)の使用額が、当初の支出計画より少額で済んだため、次年度使用額が生じた。次年度において物品費(消耗品)として適切に使用する計画である。
|