研究実績の概要 |
シリアで発掘された青色ビーズと同質の青色物質を非生物系で合成することを目的として、はじめに、常温常圧・湿式でハイドロキシアパタイト(HAp)の沈殿を合成条件の検討を行った。硝酸カルシウム水溶液にビュレットでリン酸水素アンモニウム水溶液を滴下しながら、駒込ピペットで硝酸やNaOHを添加して、pH を 2, 6, 7, 8, 9, 10 に調整して合成を行った沈殿はいずれも白色であった。生成物は吸引ろ過後に風乾し、粉末X線回折で同定を行った。pH = 2ではCaHPO4・2H2Oのみがみられたが、pH = 6以上でHApが生成していくとともに減少し、pH = 9, 10ではHApのみが存在することがわかった。 次に、硝酸カルシウム水溶液に当量の塩化マンガンを共存させ同様の方法でMn添加HApを合成することを試みた。HApと異なり生成物は褐色であった。しかし生成物ではX線回折のシャープなピークが観察されず、非晶質であることがわかった。そこで、Mn-L3 XAFS測定を行ったところ、生成物中のマンガンは2価で、MnCl2の形で沈殿に吸着しており、HApの結晶構造の中には入っていないことがわかった。薄赤色で吸光係数が小さいMnCl2が主成分であるにもかかわらず、生成物が褐色に呈色した理由として、NaOHを添加する際のpH増大によりHApの生成より先にMn(OH)2が生成し、溶存酸素により沈殿表層が酸化を受け濃褐色のMnOOHが生成したことが考えられた。HApの形成にはpH9-10の塩基性にする必要があるため、この共存マンガンの加水分解とそれによる水酸化物イオン欠乏を防ぎながらHApが形成する合成条件を今後検討する。またこれと同時に、マンガンがHApの結晶構造に置換しさらに青色を呈するような物質の合成法を、乾式の高温実験やゾルゲル法など検討を行う。
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