研究課題/領域番号 |
22K05276
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
若林 隆太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (30546172)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アルミナ / 多孔質材料 / 自己組織化 / ベーマイト / 比表面積 |
研究実績の概要 |
γアルミナは、その表面特性や比表面積の高さから、触媒・吸着分野における代表的な担体として利用されている。本研究ではγアルミナの熱力学的な理論限界までの高比表面積化(370 m2 g-1)を目指している。高比表面積化のアプローチとして、溶媒揮発に伴う両親媒性有機分子の自己組織化による多孔質構造形成技術に加え、アルミナ源として微細な粒子径のベーマイトを利用する。ベーマイトを用いた多孔質構造の形成により、γアルミナへの結晶化に伴う多孔質構造の構造変化が最小となり、γアルミナの比表面積の減少を抑制することができると考えている。 微細な粒子径のベーマイトの分散液を調製するため、大過剰の熱水中でアルミニウムアルコキシドを加水分解して酸で解膠する方法(Yoldas法)を用いた。そのベーマイト分散液に両親媒性有機分子を溶解させ、分散液を蒸発乾固させることにより粉体を回収した。回収した粉体を400℃で3時間焼成し、両親媒性有機分子の除去と多孔質化、γアルミナへの結晶化を行った。XRD測定から焼成後の多孔質アルミナ粉体におけるγアルミナの存在が示された。窒素吸着測定により測定した同試料のBET比表面積は460 m2 g-1であった。この比表面積の値はγアルミナの理論限界を超えているが、別途焼成温度を550℃まで高めると、比表面積は390 m2 g-1まで低下した。このことから、400℃焼成ではXRD測定でピークが検出されないアモルファスのアルミナ種が多く存在することや、両親媒性有機分子に由来する有機物の残存により比表面積が過大評価されていることが示唆された。これらの結果から、本年度はγアルミナの高比表面積化を進展させることができた。次年度はこれらの比表面積が過大評価される要因を排除していくことで、γアルミナ自体の高比表面積化を更に推進していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した計画に従い、以下の研究成果が得られている。 ・両親媒性有機分子を利用した多孔質アルミナ合成のためにベーマイトの分散液を調製した。ベーマイトの分散液はYoldas法により調製し、ほとんど透明な外観の分散液を得た。その分散液に両親媒性有機分子を加えて溶液を蒸発乾固、次いで400℃で3時間焼成し、両親媒性有機分子の除去とアルミナの結晶化を行った。得られた試料はXRD測定からγアルミナの存在が示された。更に窒素吸着測定から、比表面積460 m2 g-1、平均細孔径9 nm(BJH法;脱着等温線より計算)の多孔質構造が示された。 ・合成したアルミナの比表面積はγアルミナの比表面積の上限(370 m2 g-1)を超えていたが、焼成温度を550 ℃に変えると比表面積は390 m2 g-1まで低下した。このことから、400℃焼成ではXRD測定でピークが検出されないアモルファスのアルミナ種の存在や、両親媒性有機分子に由来する有機物の残存により、比表面積が過大評価されていることが示唆された。 ・他方、ソルボサーマル法でもベーマイトの分散液の調製を試みたが、回収された分散液の外観は乳白色であり、Yoldas法で調製した分散液よりも粒子径は大きいと考えた。両親媒性有機分子を利用した自己組織化による多孔質構造形成には分散液中のベーマイトの粒子径が小さいほうが好ましいため、本年度はYoldas法による分散液調製を優先的に検討した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに合成した多孔質アルミナについて、アモルファス相や有機物の残存といった比表面積を過大評価する要素を洗い出す。それらを排除し、γアルミナそのもので比表面積の理論限界(370 m2 g-1)を目指す。 γアルミナへの結晶化が不十分でアモルファス相が残存していれば、比表面積は大きく見積もられる。焼成条件の検討により、結晶化の程度と比表面積への影響を把握する。得られた比表面積の値が両親媒性有機分子の燃焼残渣に影響されていないか、元素分析等でアルミナ中の有機物の残存を調査する。 これらの比表面積を過大評価する要素に十分配慮しつつ、分散液中のベーマイト粒子の微細化も進め、多孔質構造の孔径が小さく均一で、その細孔が均一かつ最密に充填された高比表面積の多孔質γアルミナの合成を進める。合成条件を種々検討していく過程で、高比表面積の多孔質γアルミナ合成に適するベーマイト分散液の合成条件を自己組織化の最適条件とともに明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した装置について、定価よりも安価に購入する契約ができたが、メーカーで欠品となり、当初の想定よりも納品が遅れ年度を跨ぐこととなってしまった。 次年度の使用計画は提出済みの交付申請書の通り。
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