高い可視光透過性と電気伝導性を併せもつワイドギャップp型酸化物半導体開発のため、高い移動度が期待できる価電子帯に金属元素のs軌道性をもつワイドギャップ酸化物半導体群の中で、申請者がすでにp型伝導発現に成功したSn2+系酸化物3種とBi3+系2種に対し、キャリア生成機構と構造との相関を整理する。そして正孔生成に適した構造を抽出し、構造の視点からp型伝導が発現しやすい材料探索指針の確立を行う。本年は、p型伝導発現に成功したSn2+系酸化物のうち、パイロクロア酸化物であるSn2Nb2O7とSn2Ta2O7における正孔生成効率の違いの支配要因を特定することを目的として、X線構造解析及び放射光を用いた局所構造解析(広域X線吸収微細構造:EXAFS)を実施した。その結果、NbとTaの有効核電荷(Nb < Ta)の違いに応じて、Sn2Nb2O7ではSn4O四面体構造、Sn2Ta2O7ではTaO6八面体構造の周期性が乱れていることが実験的に明らかになった。Sn4O四面体構造がSn2+イオンの不対電子と、それを取り囲む酸素イオンとの電気的相互作用で成り立っていることを鑑みると、Sn4O四面体構造の乱れは周りの酸素イオンの欠損を強く示唆するものである。実際に、EXAFS解析によるスズ周辺の酸素配位数は、Sn2Ta2O7に比べてSn2Nb2O7で顕著な減少を観測した。すなわち結晶構造乱れとそれに伴う酸素欠損生成が、パイロクロア酸化物を構成するSn2+とO2-以外の第三イオン種に強く依存することが本研究を通して明らかになった。この結果はアクセプター候補となる異原子価イオンの選定に関して、価数(どの程度の正孔が誘発できるか)やイオン半径(合成可能かどうか)に加えて、有効核電荷を考慮する重要性を詳らかにしたもので有り、実用的な半導体性能を示すp型酸化物半導体開発に向けた新たな設計指針を示すものである。
|