研究課題/領域番号 |
22K05278
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小島 敏勝 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (40356986)
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研究分担者 |
片岡 理樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (20737994)
橘田 晃宜 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (90586546)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ナトリウムイオン電池 / 負極材料 / チタン系酸化物 / スピネル型構造 / 構造安定性 / 新規合成法開拓 |
研究実績の概要 |
本研究は、スピネル型構造を有するナトリウムチタン酸化物負極 Na3LiTi5O12 (以下 NTO と略す) の構造安定性の学理の構築、およびその新たな合成法の開拓を目標として進められている。 新たな合成法の開拓に向けて、本物質の構造安定性の起源の解明を目指して研究を進めてきた。スピネル型化合物の Li と Na のイオン置換に関して、より一般的な知見を得るべく、正極材料として利用されているスピネル型 LiNi0.5Mn1.5O4 (以下 LNMO) に着目し、その Na / Li 置換の過程を透過型分析電子顕微鏡によって調査した。リチウムとナトリウムのイオン交換における酸素欠陥の生成や、スピネル骨格における異種カチオンの混在が、構造安定性の起源になりうることを見出した。本知見は、次年度以降の新たな合成法の開発に向けての重要な糸口になると考えられた。また LTO からの Li⇔Na置換に関しても引き続き調査し、効率的な合成法を新たに見出した。 尚、上記の研究成果は J. Solid State Chem. 315 (2022) 123458 (DOI: 10.1016/j.jssc.2022.123458) および J. Electrochem. Soc. 170 (2023) 090531 (DOI 10.1149/1945-7111/acf95d) にて公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、これまでのLi4Ti5O12を出発原料とした溶液 Li⇔Na イオン交換に基づく NTO 合成の作業効率と合成収率を従来の3倍以上に向上させることに成功し、その成果を論文誌として発表できたことから、着実な進捗があると判断できる。 さらに昨年度の研究実績から、スピネル骨格に異種カチオンを含むスピネル型構造の化合物において、Li⇔Na 置換後の構造が安定であるとの予想が得られている。本年度は、この予想に基づき、実際にNa置換スピネル化合物が合成可能であるかどうかを、実験的に検討した。具体的には Li(CrTi)O4 に着目し、その合成と、更なる Li⇔Na置換について調査した。本化合物は Li4Ti5O12 すなわち Li(Li1/3Ti5/3)O4の類縁体にあたるものであり、特に()部分の構造において、Li の代わりに Cr を固溶させた物質である。式からもわかる通り、スピネル骨格に Ti と Cr という異種カチオンが混在した材料であり、良いモデルになりうる。本材料を合成し、その結晶構造や微細構造観察を実施した。その結果、Li(CrTi)O4 材料が着実に合成できていることが明らかになった。一方で Li ⇔ Na のイオン置換を新たに試みたが、Li(Li1/3Ti5/3)O4と同様にNa置換させることは困難であった。つまりスピネル骨格部分のカチオン混在だけでは、Na置換スピネル化合物を得ることが難しいという新たな知見が得られた。今後は目標達成に向けて新たな検証が必要であるが、モデル材料の合成が実現できたことや、新たな研究指針が示されたことをもって、おおむね順調に進んでいるとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は Li(CrTi)O4 材料をモデル系とした Li ⇔ Na イオン交換に関して、引き続き調査する。現時点では十分なイオン交換が実現できていないが、その理由を明らかにし、本イオン交換の原理や基礎を解明することを目指す。また、熱処理による合成法の開拓において NTO の熱安定性は重要な問題となりうる。したがって異種元素のドーピングによる NTO の熱安定性改善に向けての調査も実施する。具体的には Li(CrTi)O4の結晶構造を XRD および XAFSや EELS によってより詳細に分析し、LTOとの差異や、Cr 置換の効果に関してより詳細な事実を明らかにする。また異種元素ドープ LTO を水熱法などで合成し、その Li ⇔ Na イオン交換を通じで異種元素ドープ NTO を合成する。さらにその熱安定性を TG-DTA などで調査し、高温耐性を高めるための指針の確立を目指す。最終的には熱処理による NTO 合成法につながる知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:91円という少額残額に使用できる必要かつ少額物品を見出すことができなかったため。 次年度は、経験者の方法をよく聞き、適正な予算使用に努める。
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