研究課題
全固体電池は、高い安全性と高容量・高出力化の両立が実現可能であり、次世代型蓄電池の最有力候補の一つと目されている。しかしながら、充放電サイクル時の容量・出力の劣化が、その実用化を妨げる大きな課題の一つとなっている。このような背景のもと、本課題では、申請者らがこれまで開発してきた、CT-XAFS法に基づく反応分布の3次元観察技術を用いて、充放電サイクル時の反応分布をオペランドで観察することで、サイクル劣化のメカニズムを明らかにすることを目的に研究を行っている。前年度は、投影型CT-XAFS法を用いて、モデル全固体電池の充放電サイクル時の容量劣化を、空間分解能3 um、時間分解能約20 min.でオペランド・三次元観察できる手法の開発を行った。当該年度は、結像型CT-XAFSを用いて、100~200 nmほどのより高い空間分解能で、全固体電池合剤電極内の充放電反応の進行挙動を、オペランドかつ三次元で可視化できる手法の開発を行った。これにより、合剤電極内の数百から数千個の活物質粒子各々の内部、および粒子間における充放電反応空間分布を計測することが可能となった。さらに、本手法は各活物質粒子の粒径・形状などの粒子パラメータの取得も可能とするため、粒子パラメータと各粒子の反応状態の関係を定量的かつ統計的に解析することが可能となった。これにより、充電量が低い活物質粒子、あるいは反応が不均一に進行する粒子が持つ特徴を定量的に分析することができる。当該年度に開発した測定・解析手法を用いて、充放電サイクル時の各粒子における容量劣化と粒子パラメータの相関を分析することで、どのような粒子パラメータの活物質粒子をどのように分布させることで全固体電池のサイクル特性を向上させることができるかを定量的に提言できるようになると考えられ、ゆえに全固体電池の実用化に大きな貢献をすることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、(a)CT-XAFSによる反応分布のオペランド3次元観察、(b)実験データに基づく反応分布と電極微構造の相関分析、(c)電極構造情報に基づくシミュレーション、(d)電気化学測定の4つを柱として進めている。これらのうち、当初の計画通り、当該年度中に、(a)、(b)、および(d)を実施した。これにより、CT-XAFS測定およびそれにより得られるデータからサイクル劣化機構を解析するための方法論を確立した。さらに、CT-XAFSによる反応分布計測手法を高度化させ、100~200nmほどのより高い空間分解能で充放電時の反応分布形成挙動を可視化できる手法を開発した。以上の理由により、本研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
前年度開発した投影型CT-XAFSによるメゾスコピックな劣化観察と、本年度に開発した結像型CT-XAFSによるミクロスコピックな観察を協調的に活用することで、全固体電池のサイクル劣化が、いつ、どこで、どのように生じるかを、マルチスケールで評価する。さらに、個別要素法などのシミュレーションを行うことで、容量劣化機構の定量的な解析を行う予定である。
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The Journal of Physical Chemistry C
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