研究課題/領域番号 |
22K05305
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
藤原 直子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (20357924)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エネルギーキャリア / 尿素 / 燃料電池 / 水素製造 |
研究実績の概要 |
低炭素社会の実現に向け、水素エネルギーの利用と、貯蔵・運搬のためのエネルギーキャリアの開発が急務である。本研究では、毒性も引火性もなく貯蔵や輸送が容易な化合物であり、肥料や保湿剤、ディーゼル排ガス浄化剤などとして広く利用されている尿素に着目した。尿素の安全性と未利用のエネルギー資源としての魅力から、エネルギーキャリアとして尿素を直接形燃料電池や高効率水素製造に応用する新しいエネルギー変換システムを実現するための基盤形成を目的として研究開発に取り組んでいる。 当該年度は、直接形燃料電池や水素製造に共通する反応である尿素の電気化学的酸化反応のための高活性触媒の探索を中心に進めた。種々の結晶構造を有する遷移金属酸化物をクエン酸法、ソルボサーマル法、析出沈殿法などの様々な方法や条件で作製し、アルカリ電解液中での回転電極測定を実施してそれらの触媒活性を評価した。その結果、尿素の電気化学的酸化反応に対して優れた活性を有するニッケル系酸化物触媒を見いだすことができた。 さらに、上記の酸化物触媒を直接形燃料電池や水素製造に応用するための準備として、アニオン交換膜を電解質とする燃料電池と水電解装置を作製し、性能評価を開始した。上記のニッケル系酸化物をアノード触媒に使用してアニオン交換膜形水電解装置を作製し、アノード側から尿素溶液を供給することにより、尿素の電気化学的酸化反応が進行し、低電圧で高効率に水素製造できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、尿素のエネルギーを利用する上で鍵となる尿素の電気化学的酸化反応を効率的に進めるための高活性触媒を開発し、直接形燃料電池や高効率水素製造に応用することを目的としている。当該年度は以下の3項目について検討を進めた。 1.尿素の電気化学的酸化反応のための電極触媒の研究:種々の結晶構造を有する遷移金属酸化物をクエン酸法、ソルボサーマル法、析出沈殿法などの様々な方法や条件で作製し、アルカリ電解液中での回転電極測定により触媒活性を評価した。その結果、尿素の電気化学的酸化反応に対して優れた活性を有するニッケル系酸化物触媒を見いだすことができた。 2.直接形燃料電池への応用:電解質にアニオン交換膜、アノードとカソードに遷移金属酸化物触媒を用い、尿素溶液を直接アノードで酸化させて発電するアニオン交換膜形燃料電池を試作した。 3.高効率水素製造への応用:電解質兼隔膜としてアニオン交換膜、アノードにニッケル系酸化物触媒、カソードに白金触媒を用いたアニオン交換膜形水電解装置を作製し、アノード側から尿素溶液を供給することにより、通常の水電解に比べて低電圧、高効率の水素製造の可能性を実証した。 以上のように、当該年度は尿素の電気化学的酸化反応に関する基礎的知見が得られた上、その応用プロセスである直接形燃料電池と水電解への展開にも着手済みであることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の3項目についてさらに研究を推進する。 1.尿素の電気化学的酸化反応のための電極触媒の研究:尿素の電気化学的酸化反応を小さい過電圧で進行させるための高活性触媒として、これまで遷移金属酸化物を中心に探索してきた。今後は、ポルフィリンやフタロシアニンなどの有機配位子と金属を組み合わせた金属錯体触媒など、対象を広げてさらなる高活性触媒の探索を進める。 2.直接形燃料電池への応用:電解質にアニオン交換膜、アノードとカソードに非貴金属触媒を用いたアニオン交換膜形燃料電池において、尿素およびその関連化合物を燃料としてアノードに供給した場合の発電性能を評価する。 3.高効率水素製造への応用:アニオン交換膜形水電解装置において、より高い尿素酸化活性を有するアノード触媒と、非貴金属系のカソード触媒を検討することにより、尿素溶液を用いた水素製造のさらなる高効率化を図る。 以上のように得られた研究成果を取りまとめ、学会や誌上での発表を通じて外部へ積極的に発信するように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施した遷移金属酸化物の調製とその物性評価、および電極触媒活性評価には、既に保有していた合成装置や電気炉、X線回折装置、比表面積測定装置、回転電極測定装置などを使用することができた。また、燃料電池や水電解用の電極作製にも既存の電極塗工装置やホットプレス装置などが使用できた。当該年度における燃料電池や水電解装置での実証試験には、予備段階として汎用的な電極材料・部材類を用いた簡易的な評価セルを用いるとともに、既設の電気化学測定装置を修理・メンテナンスして利用したため、予定を下回る経費で対応できた。 次年度には、アニオン交換膜形燃料電池、アニオン交換膜形水電解でのより高度な実証試験に適した専用の評価セルを試作する必要があるため、その設計と新規購入のための経費に充てることを計画している。
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