研究課題
8-OxoGuanine Glycosylase 1 (OGG1) は、8oxoGの脱塩基反応 (グリコシラーゼ反応) と、それに続くDNA鎖切断反応 (βリアーゼ反応) の二つの反応を触媒する二機能性酵素である。ところでOGG1は、近年アルツハイマー病との関連が取り沙汰されており、OGG1のβリアーゼ活性と疾病の関係に強い興味が持たれている。そこで本研究では、βリアーゼ活性欠損型等の変異型OGG1の創製を試みる。その過程で得られた種々の変異体を利用して、OGG1の酵素活性の変調が疾病を誘起する機構を考察する。なおOGG1においてはβリアーゼ活性とグリコシラーゼ活性は共通の活性残基が使われおり、その機能分離には触媒機構の深い理解が必須である。よって本研究では、徹底した化学的触媒機構解析を実行し、βリアーゼ活性欠損型OGG1のRational Design (論理的改変) を実行する。もって多機能酵素の触媒能ごとの生体内機能解析に道を拓く。ところでOGG1には、D268残基とK249残基という2つの活性残基が知られている。このうち、βリアーゼ活性に関与するのは、K249残基である。よって、上記の目的を達成するために2022年度、K249残基を変異させた各種変異体を作成した。4種類のアミノ酸に置換した変異体を作成して、活性を調べたところ、3種類は不活性な変異体となったが、1種類の変異体では酵素活性が検出された。なお、本変異体を用いた酵素反応実験で、基質DNAを単離して、その化学構造を質量分析法(ESI-MS)で解析を進めている。これらの実験によって、酵素反応でプロセスを受けた基質DNAの構造が明らかとなり、βリアーゼ活性の有無を検証していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
上述の通り、活性残基K249に変異を導入した上で、グリコシラーゼ活性を残した変異体をとることが目的である。ところで、活性残基に変異を入れると単なる不活性変異体となるのが一般的であるが、本研究においては、活性変異体が取れている。一番のボトルネックである、活性残基に変異を導入した活性変異体の取得ができていると言える。その結果、この変異体の活性が、βリアーゼ活性を失って、グリコシラーゼ活性のみとなっていることを検証するこという、次のステップに入ることができている。以上の成果より、本研究課題は概ね順調に進展していると考えられる。
○ 上述の通り、K249残基に変異を導入した活性変異体においては、現在、質量分析法(ESI-MS)によって、OGG1によってプロセスされた基質DNAの構造解析に入っている。今後、質量分析法によって、OGG1によってプロセスされた基質の化学構造を決定する予定である。なお、OGG1の活性変異体が、βリアーゼ活性を失ってグリコシラーゼ活性のみとなっていた場合、プロセスされた基質の構造はAP-site(リボースのアノマー位に水酸基が結合した構造)になっていることが期待される。そこでこの構造となっているかどうかを検証する予定である。さらに、上記の活性変異体が、βリアーゼ活性を失ってグリコシラーゼ活性のみなっていなかった場合に備えて、その他の活性変異体の取得も同時並行で進めていきたい。Lys249 (K249) と Cys253 (C253) のアミノ酸を入れ換えたK249C/C253K二重変異体も活性を維持した変異体であることが知られている。K249C / C253K 二重変異体のK253残基にも変異を導入して、活性変異体の取得を目指したい。なお本研究課題で計画している以下の実験についても進める予定である。○ X線結晶構造解析:OGG1-DNA複合体中の酵素反応中間体直接観測: 活性残基であるAsp268(D268)の触媒機能の同定には、基質DNAとの共有結合中間体の観測が一番の決定的証拠となる。もう一方の活性残基 Lys249 (K249) に変異を入れた活性型変異体と基質の反応前の複合体を結晶化し、結晶中で酵素反応を進めることで、酵素反応中間体の状態で反応を止めて、その構造を活写 (構造決定) する。もって、K249 と D268 の触媒機構上の役割を解明する。○ 量子化学計算によるOGG1触媒機構解析
使用残額として188,172円となったが、概ね昨年度の研究費を使用しており、ほぼ計画通りの支出である。残額については、2023年度の研究費と合わせて、計画的に支出していく予定である。
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