研究課題
大腸菌内膜に存在するMPIaseは膜蛋白質の膜挿入を促進させるユニークな活性を持つ糖脂質である。最近我々は、MPIaseが脂質二重膜にチューブ状の突起を形成させることを見出した。そこで、膜蛋白質膜挿入活性を持つ糖脂質MPIaseの膜形状制御メカニズムを明らかにし、その生物学的な意義を理解することとした。初年度は、MPIaseが脂質二重膜の形状を変化させる原理を物理化学的手法により解析し、その制御機構を明らかにした。1)MPIaseやMPIase誘導体による膜の形態変化の観察 MPIaseにより巨大リポソーム(GUV)上に引き起こされる突起形成の頻度のMPIase濃度依存性や、その膜突起の径、本数等を蛍光顕微鏡やネガティブ染色電子顕微鏡により解析した。安定にGUVを観測するための最適な試料条件の検討を行った。2)MPIaseの膜上での局在分布解析 MPIaseにより形態変化が起こっているGUV膜においてMPIaseの局在分布をMPIase抗体や蛍光標識合成MPIase類縁体を用いて蛍光顕微鏡により解析した。3 膜上のパッキングの強さの分布解析 突起が形成されている膜に膜環境感受性色素を入れて、膜上でのパッキング強さの分布をGUVの各位置の蛍光スペクトルのピークシフトにより観測し、形態変化との関係性を考察した。4 電子顕微鏡によるチューブ状突起の微細構造の観察 MPIaseによって形成されたチューブ状膜突起の微細構造を調べるため、クライオ電子顕微鏡やネガティブ染色電子顕微鏡を用いた解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記入した通り順調に進展している。
MPIaseが膜の突起形成を誘起する機構を物理化学的手法により明らかにした後に、MPIaseが存在する大腸菌内膜において、MPIaseによる膜形状制御は膜環境とどのような影響を与えあっているか、共存因子の有無や形態変化の生物学的意義について理解する。1)MPIase-大腸菌細胞質内在分子との複合体による膜形態変化の観察大腸菌細胞質には蛋白質や核酸を始め多くの分子が存在している。MPIaseの糖鎖部分は3種類のアミノ糖からなるユニットの繰り返し構造を取るために多価結合を起こしやすい。細胞質内在性分子との結合はMPIase糖鎖部分にボリュームを与え、立体反発によりさらに曲率が上がり、大腸菌内膜の形態変化を増強させる可能性が考えられる。そこで、外からMPIaseを加えて突起が形成されているGUVにさらに大腸菌細胞質ライセートを加え、その突起形成の変化を蛍光顕微鏡により観察する。もし変化があれば、要因となる分子を特定し、大腸菌内で起こりえる内在性分子による形態変化への影響を検討する。2)蛍光基質蛋白質と蛍光標識MPIaseの共局在観察突起形成により膜の表面積を広げることで蛋白質の膜挿入が促進している可能性を検証する。MPIaseの膜挿入基質であるCytochrome b5と蛍光蛋白質の融合蛋白質を作成し、これをMPIase含有GUVに膜挿入させる。蛍光標識MPIaseを用いることで、基質蛋白質とMPIaseが膜挿入段階において膜の突起部分に共存しているかを観測し、膜挿入と膜の突起形成との関係性を考察する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Sci Rep.
巻: 12 ページ: 12231
10.1038/s41598-022-16304-1
https://www.sunbor.or.jp/