研究実績の概要 |
本研究の目的は、共有結合形成と切断を行う光反応を開発し、それを用いて生命科学研究や創薬に役立つ新たな生体材料を創出することである。我々はこれまで光増感剤の存在下、赤色光を短時間照射することで、芳香族複素環化合物の一種であるインドリジンから、カルボン酸またはアルコール化合物を放出する光反応を開発してきた。本反応を生命科学研究への応用を進めていく中で、細胞や生体内ではインドリジンと光増感剤の2つの成分が希釈され、光反応の効率が低下する問題が生じた。また、特定の標的部位で光反応を行いたい場合、標的分子と結合するターゲティングリガンドをインドリジンに連結する必要があった。このため、生体内で機能する光反応を実現するには、インドリジン、光増感剤およびターゲティングリガンドを光反応性や親水性を損なうことなく適切な配置で集結させる新たな担体の開発が必要となった。本課題を解決するために、我々はサイズの小さな金ナノクラスターに着目した。アジド基とアミノ基を持つ二反応性金ナノクラスターを用いることで、赤色光照射で抗がん剤を放出するインドリジン、光増感剤およびターゲティングリガンドを金ナノクラスター上に簡便に導入することができた。最後に、これらの金ナノクラスターの抗がん活性をヒト肺がん由来A549細胞を用いて検証し、赤色光照射により顕著な細胞毒性を示すことを明らかにした。本研究の成果を特許出願するとともに、査読付国際論文誌に公開した(Chemical Science, 2024,15, 1402-1408)。
|