研究課題/領域番号 |
22K05334
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐々木 栄太 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 講師 (00803157)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | タンパク質シェル / 人工タンパク質 / ルマジン合成酵素 / DDS / 分子進化 / バクテリアルマイクロコンパートメント(BMC) |
研究実績の概要 |
本研究は、細菌由来のタンパク質コンパートメント(タンパク質の殻(シェル)構造で区画化された空間)の人工利用への道を拓くことを目指し、ゲノムデータから得られる多様なシェルタンパク質を遺伝的に改変または進化させることにより、標的とするタンパク質を取り込みながら自発的にシェルを形成する新たな機能性人工シェルを創成することを目的とするものである。昨年度は、60量体からなるシェル構造を形成する超好熱菌 Aquifex aeolicus由来のルマジン合成酵素(AaLS)を改変し、大腸菌内で共発現させた標的タンパク質を自発的かつ特異的にシェル内に取り込むシステムを構築した。本年度は、さまざまなpHに調整した緩衝液中でのAaLS改変体シェルの安定性を動的光散乱(DLS)法によって評価した。その結果、AaLS改変体シェルは中性条件下においては安定であり、pH6以下の酸性条件下においては崩壊して凝集体を形成することが示唆された。また、本年度はSalmonella enterica由来のバクテリアルマイクロコンパートメント(BMC)を構成するタンパク質であるPduUとEutSに注目し、これらのタンパク質を基とした人工シェルの創成を試みた。具体的には、これらタンパク質の片側表面に負電荷をもつアミノ酸変異を導入した後、error prone PCR (epPCR) を用いてランダムな変異を導入したシェルタンパク質ライブラリーを構築した。本ライブラリーの中から、正電タグを付与した毒性タンパク質を内包可能なシェルを選別することによって、目的とする進化体を得た。さらに、進化体シェルのTEM解析によって、PduU進化体は、それのみで直径約30、50、70 nmの球状のシェル構造を形成可能なことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、ゲノムデータベースから選び出したバクテリアルマイクロコンパートメント(BMC)由来のシェル遺伝子を基とした設計および分子進化によって、大腸菌内で共発現するだけで、標的タンパク質を内包可能な新たな人工タンパク質シェルの創出に成功したため。また、昨年度開発に成功した標的分子に特異的な相互作用タグを有するAaLS改変体についてもさまざまなpH条件下における安定性を評価した結果、エンドソームなどの酸性条件下で内包物を放出可能なシェルの開発につながることが期待される結果を得たため。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度開発に成功したAaLS改変体は、ネガティブ染色を用いた透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって、直径16 nmと29 nmの2種類のシェル構造を形成することがわかっている。また、本年度開発に成功したPduU進化体については、同様のTEM観察によって、直径約30、50、70 nmなどのさまざまな大きさのシェル構造を形成することを見出している。今後は、クライオ電子顕微鏡を用いたより詳細な構造解析によって、これらAaLS改変体とPduU進化体の新規シェル構造を明らかにしたい。また、酸性条件下で崩壊することが示唆されたAaLS改変体については、細胞内のエンドソームにおいて内包物を放出することのできるドラッグデリバリーシステム(DDS)に利用できる可能性があるため、細胞を用いた検討・評価を行う予定である。さらに、外部刺激に応答して内包物を放出するような機能をもつ新たな人工タンパク質シェルの創成にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、令和5年度は110万円、令和6年度に90万円の予算を計上していたが、令和5年度は消耗品に係る費用を抑えることができたため、約20万円分を令和6年度に繰り越すこととした。令和6年度の予算は、研究のために必要な消耗品費や旅費などに加えて論分投稿費に使用する計画である。
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