腎細胞がんの治療は切除手術療法が最も有効な治療法であり,早期腎細胞がんの場合,腎部分切除術が優先して選択される。腎部分切除術においては,正常部位をなるべく温存することが患者の負担を低減するため,正常部位とがん部位の境界を判別することが重要となる。本研究では,早期腎細胞がんにおける部分切除術において,術中でのがん部位を明確に判断する技術を開発する。本年度では,申請者がすでに開発した尿管近赤外撮像剤の化学的安定性を高めたTK-1化合物を用いて,腎細胞がん部位の境界の判別能力に関して試験を行った。TK-1化合物は静脈投与後,すぐに腎臓に移行し尿として排泄される特性を持つため,腎臓の可視化イメージングに適していると考えられた。マウス腎細胞がん細胞Rencaをマウス腎臓に移植し,がん組織を成長させ,Renca腎細胞がんマウスモデルを作成した。このマウスにTK-1化合物を尾静脈投与し,医療用近赤外蛍光観察カメラシステムを用い腎臓のTK-1の近赤外蛍光を観察し,正常組織とがん組織における近赤外蛍光の強度を解析した。その結果,がん組織は蛍光を発しにくく,正常組織は蛍光を強く発することが判明した。これらの試験により,TK-1化合物は,静脈投与直後に腎細胞がん組織と腎臓正常組織の判別に使用できることを見出した。なお,本研究は腎細胞がん同所性移植マウスを用いた試験であり,ヒトに対して保証するものではなく,今後,腎細胞がんを有するヒトにおいて,安全性や効果を詳細に試験する必要がある。
|