研究課題/領域番号 |
22K05370
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
池永 誠 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (70511822)
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研究分担者 |
中村 正幸 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (90404475)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サツマイモ基腐病菌 / 土壌改良資材 / 細菌 / 叢解析 / ストレプトマイセス科 / 拮抗能評価 |
研究実績の概要 |
サツマイモ基腐病は、Diaporthe destruensによって引き起こされる難防除性の病害である。本研究では土壌改良資材を土壌に施用し、基腐病に対して拮抗能を有する微生物を増加させ、微生物学的視点から基腐病菌の増殖を抑制し、基腐病の蔓延防止に資することを目的としている。本研究では、研究期間を通して次の6項目の実施を予定している;1.土壌改良資材の選定、2.圃場管理・採取、3.微生物叢解析と発現遺伝子解析、4.微生物の分離と基腐病菌に対する拮抗能評価、5.基腐病菌の定量解析、6.サツマイモの発病率・収量との関係性解析。令和4年度は、項目1と項目2~4の一部を行った。 土壌改良資材を選定するため、基腐病菌汚染圃場から採取した土壌に土壌改良資材(米糠、ソイルファイン、黒い瞳)を施用し、土壌ポットの培養実験を行った(項目1)。比較対象には化学肥料区を設けた。結果、いずれの土壌改良資材でも、培養法で細菌数の増加が認められ、また、叢解析ではストレプトマイセス科の存在比の増加(2~10倍)が認められた(項目3)。両者の増加は、米糠とソイルファインで顕著であったが、土壌の水分含量が増加すると腐敗したことから、圃場への施用は、鶏糞と焼酎粕を混合・堆肥化した黒い瞳が最適と判断した。次に、基腐病菌汚染圃場に黒い瞳区と化学肥料区を設け、黄金千貫を定植した。定期的に植物・土壌試料を採取したほか、植物体は健全個体と罹病個体を分けて採取した(項目2)。ただし、令和4年度は基腐病よりも、乾腐病や軟腐病が蔓延したことから、菌叢解析は保留とし、解析費用は繰り越した。項目3の菌叢解析で、ストレプトマイセス科の存在比が増加していたことから、項目4では、同一配列を有する菌株を選択培地で分離し、基腐病菌に対する拮抗能評価を対峙培養で試験した。結果、これらの分離菌株に基腐病菌の増殖を抑制する拮抗能が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は土壌改良資材を土壌に施用することにより、基腐病菌に対して拮抗能を有する細菌が応答するか否かが、本研究を遂行する上でのターニングポイントであった。菌叢・菌数解析で土壌改良資材の施用で応答した細菌を選択培地で分離して、サツマイモ基腐病菌に対する拮抗能を対峙培養で評価した結果、サツマイモ基腐病菌に対して増殖を抑制する拮抗能を有していることが、分離菌株に確認された。 一方、令和4年度の圃場試験では、サツマイモ基腐病よりも乾腐病や軟腐病が蔓延した。昨年度の収穫時に罹病芋を圃場内に投棄していたことが原因であった。このため、植物試料や土壌試料を定期的に採取したものの、菌叢解析は保留とし、令和5年度に研究費を繰り越した。令和5年度の圃場試験は、当該圃場ではなく、圃場管理を綿密に行っている近隣の基腐病菌汚染圃場(南九州市頴娃町)を使用する予定である。既に、圃場所有者の農家に使用の合意を得ており、圃場内の処理区は設計済みである。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、基腐病菌汚染圃場(南九州市頴娃町)に試験圃場を変更した以外は、計画どおりに研究を推進する。 実施内容は次の通りである。土壌改良資材区(黒い瞳)と比較対照区(化学肥料)を設け、植物体(根、基部)、根圏土壌、非根圏土壌の採取と罹病率調査を定期的に行う。収穫期には収量調査も行い、土壌改良資材施用による収量への効果を調査する。とくに基腐病は生育後半に症状が確認され始めることから、生育後半の植物試料とその根圏土壌は、健全個体と罹病個体に分けて採取する。採取した試料を用いて、細菌の菌叢解析と、基腐病菌の定量解析(研究分担者が実施)を行い、両者の関係性を比較・検討する。また、各試料の菌叢解析において土壌改良資材の施用で存在比が増加した細菌を分離し、基腐病菌に対して拮抗能を示すかについて、水溶性化合物および揮発性化合物の両面から評価を進める。令和4年度に分離した細菌は水溶性化合物の評価に留まっていたので、揮発性化合物でも基腐病菌に対して拮抗能を有するか評価する。RNA-seqによる発現遺伝子解析は令和6年度に実施するため、採取した試料はRNAlaterに浸けて-80℃で冷凍保存しておく。 以上の他、令和5年度は、6月開催の日本土壌微生物学会2023年度千葉大会、及び11月開催の第13回アジア微生物生態学会で、研究成果の発表を予定している。また、本研究で分離した拮抗菌の実用化について、学会参加者と協議したいところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の圃場試験では、サツマイモ基腐病よりも乾腐病や軟腐病が蔓延した。昨年度の収穫時に罹病芋を圃場内に投棄していたことが原因であった。このため、植物試料や土壌試料を定期的に採取したものの、菌叢解析は保留とし、令和5年度に研究費を繰り越した。繰り越した研究費は、令和4年度に保留した試料の中から菌叢解析に供試できるものを選抜して菌叢解析に使用する他、令和5年度に採取する試料の菌叢解析にも使用する予定である。
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